遺言書の形式(2)ー公正証書遺言とはー
公証人が作成に関与するので法的に不備のない遺言がのこせます
公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、遺言者が公証人に口頭で遺言内容を伝え、それをもとに公証人が遺言書を作成する遺言方式のことです。遺言公正証書とも呼ばれます。
遺言の作成に公証人が関与するので法的に確実に有効な遺言がのこせます。
また、公証役場に原本が保存されるので改ざんや紛失の恐れもありません。
さらに、公正証書遺言のみ家庭裁判所での検認手続きが不要です。
ただし公証人の他に2名の証人の立ち合いが必要なため、遺言内容を完全に秘密にすることはできません。
遺言内容を絶対に他の方に秘密にしたい場合は、自筆証書遺言や秘密証書遺言を利用しましょう。
公正証書遺言の作成方法
公正証書遺言を作成するには公証役場に連絡して作成依頼をすればいいのですが、依頼をしたその日にすぐ作成してくれるというものではありません。通常は事前に遺言内容についてやり取りをして、必要な書類をそろえたうえで、実際に作成する日を決めて公証役場に出向いて作成するということになります。具体的には以下のような流れになります。
公正証書遺言作成の流れ
1.公証役場に公正証書遺言を作成したいとの連絡をする。 |
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2.必要書類を確認して準備しておく。 |
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3.遺言の内容について公証人と事前に打ち合わせ。何度かやり取りを重ね遺言書原案完成。 |
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4.公正証書遺言を実際に作成する日を調整して決める。 |
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5.作成期日までに証人2人を手配しておく(公証役場で手配してもらうことも可能)。 |
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6.作成期日当日になったら公証役場に出向いて、証人立会いのもと遺言書を完成させる。 |
公証役場まで出向いて作成するのであれば、全国どこの公証役場でも作成が可能です。北海道の方が沖縄の公証役場で作成することも可能ですが、通常は住所地の近くの公証役場で作成することになると思います。公証役場まで出向くのが難しければ、自宅や病院まで出張してもらうことも可能です。ただしこの場合は遺言を作成する場所の管轄区域内にある公証役場にしか依頼できません。
全国の公証役場はこちらから検索できます。
公証人との事前打ち合わせは面談、電話、ファックス、メール、郵送などの方法で行います。自分の思った通りの遺言をのこすためにはこの事前打ち合わせが非常に重要になります。公証人が遺言者から聞き取った内容をもとに遺言書原案を作成するので、納得がいくまで何度かやり取りをすることになるでしょう。
最初の問い合わせから完成までにかかる期間は、遺言の内容や準備する書類の種類、各公証役場の忙しさなどにもよるでしょうが、しっかりと事前打ち合わせを行うためには2週間から1か月程度の余裕は見ておいた方がいいかもしれません。
作成された遺言の原本は公証役場に保存され、遺言を作成したかどうかは全国の公証役場で検索できます(遺言者の生存中は遺言者以外は検索できません)。
公正証書遺言作成に必要な書類
公正証書遺言の作成にあたって必要な書類は主に以下の通りになります。
※遺言の内容によって必要になる書類は異なるので、詳しくは各公証役場にお尋ねください。
- 遺言者本人の印鑑証明書(発行から3か月以内のもの)および実印。用意できない場合は運転免許証やパスポート等の顔写真入り身分証明書および認印
- 遺言者と相続人との続柄がわかる戸籍謄本・除籍謄本
- 相続人以外の方へ遺贈する場合はその方の住民票
- 遺言の対象とする財産の所在と価額を特定するための資料(不動産の場合は登記事項証明書および固定資産税評価証明書)
- 証人2名を遺言者が手配する場合は証人の氏名・住所・生年月日・職業のメモ
公正証書遺言作成当日の流れ
1.証人2名の立ち合いのもと、遺言者が公証人から本人確認や質問を受けます。 |
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2.遺言者が遺言の趣旨を公証人に口頭で伝えます。 |
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3.遺言者の口述を公証人が筆記して、それを遺言者及び証人に読み聞かせます。 |
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4.遺言者及び証人が遺言内容に間違いないことを確認して、各自遺言書に署名押印します。 |
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5.公証人が遺言書に署名押印します。 |
- 2、3は実際には事前に公証人と打ち合わせをして、それをもとに公証人が遺言書の原案を作成し、当日はそれを確認するという形です。口がきけない方、耳が聞こえない方の場合はそれぞれ紙に書く、通訳を介す等の方法で対応可能です。
- 4は遺言者が病気等の理由により署名できない場合は、公証人がその旨を付記して署名に代えることができます。
以上が公正証書遺言作成の流れになります。
作成された遺言書の原本は公証役場で保管され、遺言者には謄本が交付されます。
これらの手続きは原則として公証役場で行われますが、身体的理由等で公証役場に行くことが難しい場合は、公証人が出向いてくれます(別途公証人の日当や交通費が必要になります)。
また、証人2名は公証役場で手配してもらうこともできますが、人数分の日当が必要になります。自分で手配してもいいのですが、未成年、推定相続人及びその配偶者ならびに直系血族、受遺者(遺贈を受ける人)及びその配偶者ならびに直系血族、公証人の身内、などは証人になれません。
おおよそ遺言に利害関係を有するような身内の方は証人となれないので注意が必要です。
公正証書遺言作成に必要な費用
公正証書遺言に作成に必要な手数料は遺言の目的とする財産の額によって異なります。手数料は全国一律で以下の表の通りになります(計算の際は、遺言で財産を与える相続人や受遺者一人ごとに計算して、その額を合算します)。
■公証人手数料(公正証書遺言)
遺言の目的とする財産の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円まで | 5,000円 |
200万円まで | 7,000円 |
500万円まで | 11,000円 |
1000万円まで | 17,000円 |
3000万円まで | 23,000円 |
5000万円まで | 29,000円 |
1億円まで | 43,000円 |
1億円を超える部分については以下の額が加算されます。
遺言の目的とする財産の価額 | 手数料 |
---|---|
1億円超3億円まで | 5000万円ごとに13,000円 |
3億円超10億円まで | 5000万円ごとに11,000円 |
10億円超 | 5000万円ごとに8,000円 |
財産の総額が1億円以下の場合は、上記の額に加えて11,000円が加算されます。
このほか出張の場合は日当や交通費がかかります。証人を手配してもらった場合は証人の日当も必要になります。また、作成のために必要な戸籍等の書類の発行手数料等は別途必要です。
手数料について詳しくは各公証役場にお問い合わせいただくかこちらをご覧ください。
≫Q7.公正証書遺言の作成手数料は、どれくらいですか?|日本公証人連合会
より確実な遺言にするためには専門家へ依頼を
実際には作成当日よりもその前の、必要書類の収集、公証人との打ち合わせ、文案の作成の方が大変かつ重要です。一人ですべてやるのは面倒だし不安・・・という方は専門家へ相談することをお勧めします。
また、公証人は遺言が法的に有効かといった形式上のアドバイスはしてくれますが、遺言者の財産状況や各相続人の遺留分などを考慮した上での財産配分や、遺言者の想いが最も現れる付言事項についての具体的なアドバイスまではしてくれませんので、遺産争いが起きないよう、なるべくすべての相続人が納得できるような遺言をのこしたいという方も、専門家へのご相談をお勧めします。専門家に依頼した場合、利害関係のない証人2名の手配も対応してくれるところが多いので、この点もメリットです。
大切な人への想いを確実にのこすためにも、ぜひ公正証書によって遺言をのこしましょう。
公正証書遺言作成についてのご相談は当センターで承ります。ご依頼を検討中の方のご相談は無料です。
次回は3つの遺言書形式の最後の一つである秘密証書遺言について解説します。
こちらが続きになります。
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