遺言書の書き方(自筆証書遺言の見本)
自分で遺言書を書いてみる
通常時の3種類の遺言形式の中でも最も手軽なのは、自分で紙に遺言を自書する自筆証書遺言でしょう。遺言書をのこす・書くと言えば多くの方はこの自筆形式での遺言を思い浮かべるかもしれません。
わかりやすく明確な内容の遺言書を書きましょう
自筆証書遺言は手軽な形式ではあるのですが、法律で決められた形式に沿って書かないと、遺言そのものが無効になってしまいます。とは言え要件そのものは後ほど説明するようにそれほど難しいものではありません。しかしいざ遺言書を書こうとするとそれとは別の悩みが出てくるかもしれません。
それは遺言書に何をどう書けばいいのかという悩みです。
遺言書はどう書けばいい?
遺言書を書こうとはしてみたものの、果たして何を書けばいいのか、逆に何を書いたらいけないのか、あるいは財産の分け方を書くにしても財産の特定の仕方はどう書けばいいのか、などで悩まれてしまう方は多いと思います。
遺言書の書き方についてですが、自筆証書遺言であれば
- 全文が遺言者の自筆である。
- 特定できる日付が記載されている。
- 遺言者の署名がされている。
- 遺言者の押印がされている。
という4つの要件は備える必要がありますが、それ以外は基本的には自由です。書く順番や文言なども決まっていませんし、用紙のサイズも自由です。書いても効力のない事項はあっても書いてはいけない事項はありません(トラブルを招くような事を書くのは控えるべきですが)。
以下に遺言書のサンプルを挙げますが、必ずしもこの通りに書く必要はありません。
ただし記載があいまいだったり不明確だったりすると、後々相続人の負担が大きくなったり、内容の解釈をめぐってトラブルになったりしかねないので、記載例と注意点を参考に、わかりやすく誤解の少ない書き方を心がけましょう。
どう書いていいかわからない方は、専門家に相談のうえ作成することをお勧めします(自筆証書遺言を実際に作成するときは全文を紙に自書してください。公正証書遺言であれば自書の必要はない上に、公証人が文案も作成してくれます。)。
自筆証書遺言についてくわしくはこちらをご参照ください。
遺言書の書き方の例(自筆証書遺言の見本)
自筆証書遺言の一例です。イメージが湧きやすいように実際の遺言書に近い形の画像も載せておきます。
※実際に作成するときは全文を紙に自書してください。
●自筆証書遺言のサンプル01
自筆証書遺言見本(クリックで画像が拡大します)
●自筆証書遺言のサンプル02
遺言書
遺言者山田太郎は次の通り遺言する。
第1条 遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を、妻山田花子(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる。
記
1.土地
所在 東京都渋谷区渋谷1丁目
地番 ○○番○○
地目 宅地
地積 100.00平方メートル
2.建物
所在 東京都渋谷区渋谷1丁目
家屋番号 ○○番○○
種類 居宅
構造 木造瓦葺弐階建
床面積
1階 50.00平方メートル
2階 40.00平方メートル
第2条 遺言者は、遺言者名義の下記預金債権を、長男山田一郎(昭和○○年○○月○○日生)および次男山田次郎(昭和○○年○○月○○日生)にそれぞれ2分の1の割合で相続させる。
記
株式会社○○銀行 渋谷支店 普通預金
口座番号 ○○○○○○○
第3条 遺言者は、前二条に記載する財産を除く、遺言者の有する一切の財産を、妻山田花子(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる。
第4条 遺言者は、遺言執行者として長男山田一郎を指定する。
平成29年7月7日
東京都渋谷区渋谷1丁目○○番○○
遺言者 山田太郎 印
自分で遺言書を書く際に注意すべき点
以下では自分で遺言を書く際の注意点について解説します。
ポイントは『できるだけ明確に、誤解のない表現を用いる』ことです。
Point1
人物と財産の特定は重要なのでできるだけ正確に記載しましょう。
人物はどこの誰だかはっきりわかるように、氏名に加えて生年月日まで(場合によっては住所まで)書いておくとよいでしょう。
不動産は登記簿の記載をそっくりそのまま、預貯金は支店や口座番号まで書きましょう。
Point2
『相続させる』のか『遺贈する』のかも重要な意味をもつためしっかり分けましょう。
言い回しがあいまいだったり不明確だったりすると、その解釈を巡って揉める原因になるので、できるだけ誤解を生まないようなシンプルな表現を心がけましょう。
Point3
主な財産以外についてどうするかも記載しておきましょう。
自分で書くと意外と忘れがちなのがこの部分です。
本人が財産だと思わないような細かい物についても、遺言に記載がなければ、相続人全員での遺産分割協議が必要になることがあります。書き忘れや、後で他の財産が見つかった場合でも、この一文があれば遺産分割協議は不要です。
上記遺言書第3条のように書いてもいいですし、『その他一切の財産を○○に相続させる』という記載でも構いません。
Point4
『遺贈する』なら遺言執行者は必ず指定しておきましょう。
遺言執行者は必ず指定しないといけないわけではありません。
遺言の内容がすべて相続人に『相続させる』という内容であり、遺産の数がそれほど多くなく、遺言内容が難しいものでなければ、特に遺言執行者の指定は必要ないかもしれません。
例えば遺産が不動産の場合、相続による名義変更登記の申請は、財産を受け継ぐ相続人が単独で申請するため、遺言執行者の職務はありません。
しかし『遺贈する』場合は、遺言執行者がいなければ相続人全員と受遺者(遺贈を受ける人)の共同申請になります。特に相続人以外の第三者が受遺者となる場合、相続人の中に遺贈を快く思わない人がいれば、名義変更登記に大変な苦労を伴うことがあります。
遺言執行者を指定しておけば、遺言執行者と受遺者が共同で申請することがでるので、相続人以外の方へ遺産をのこしたい方は必ず遺言執行者も指定しておきましょう。財産を受ける相続人や受遺者を遺言執行者に指定することもできます。
また、遺贈でなくても、相続人や財産の数が多かったり、遺言内容が難しそうな場合は、相続人の負担の軽減やトラブルの防止のために、信頼できる専門家などを遺言執行者に指定しておいた方がいいでしょう。
遺言執行者に就任を断られてしまうと、原則通り相続人全員での手続きが必要となるので、財産を受ける人以外を指定するときは、引き受けてくれるよう事前に依頼しておきましょう。その際に報酬についての取り決めを交わしたら、それも遺言書に記載しておきましょう。
残される人への想いは付言事項に込める
遺言書の主要な目的である財産分与については、上記のような記載をしておけば問題ないでしょう。
他にも遺言に書くことで法的に効力を有する事項(遺言事項)はありますが、書き方によっては無効となるため注意が必要です。
また、上記の見本では記載されていませんが、遺言事項以外に付言事項(ふげんじこう)として、残される人たちへの想いを書くことができます(『兄弟仲良く』とか『お母さんを助けてあげてください』などです)。
法的拘束力はないですが、遺言者の想いを知ることによって、相続人間のトラブルを防ぐこともできるので、できるだけ書いておくべきです。
付言事項の書き方に決まりはないですが、特定の相続人への愚痴や不満など、トラブルの火種になりそうなことをわざわざ書くことは避けるべきでしょう。
記載する内容が多い場合は専門家へ相談を
遺言は故人の最後の想いを伝える重要なツールです。
確実性や安全性の面から言えば公正証書遺言を作成しておくべきですが、まずは今回の記事を参考に、自分一人で気軽に書いてみるのも悪くないでしょう。
ただし相続人や財産の数が多い場合は、後のトラブルを防ぐためにも、より確実な方法で遺言をのこしておくべきです。記載する内容が多くなれば、間違いがないかチェックするのも大変なため、専門家に相談のうえ作成することをお勧めします。
ここまで書いてきたようなことは信頼できる専門家であれば当然アドバイスしてくれるはずです。
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