意外と知らない遺贈の放棄と相続放棄の違い
遺贈は拒否できる?
遺言によって特定の方に財産を遺す(残す)ことを「遺贈」と言います。
財産を貰えるのだから受け入れる場合が大半ではありますが、様々な事情から遺贈を拒否したいという方もいるでしょう。
比べてみると違います
遺言によらずに遺産を相続する場合は、相続したくなければ相続放棄するという選択肢があります。
では、遺言によって受遺者(遺贈を受ける人)として指定された場合も、同じように遺贈を放棄することができるのでしょうか?
この記事では
・遺贈を放棄する方法と注意点
・遺贈の放棄と相続放棄の違い
について、相続に精通した専門家がくわしく解説します。
これを読めば、正しく遺贈を放棄する方法がわかり、ご自身で対応することも可能です。
また、遺贈を放棄すべきがどうか迷いがある…という方はお早めに専門家へ相談することをおすすめします。
遺贈は放棄することができる
遺贈とは、遺言によって特定の方に財産を遺す(残す)ことを言います。
主に法定相続人でない方へ財産を受け継がせるための手段として使われることが多いです。
遺贈することによって残された方は財産を取得することができるわけですが、残念ながらせっかくの遺贈を拒否したいケースもあると思います。
例えば、次のようなケースです。
・山林や農地などの処分に困る財産を遺贈された場合
・遺贈を受けることで他の相続人とのトラブルになりそうな場合
・遺言と異なる分け方をしたい場合
・包括遺贈で、プラスの財産より借金等のマイナスの財産の方が大きい場合
・負担付遺贈で、もらえる財産に比べて負担が大きい場合
※負担付遺贈・・・遺贈する代わりに、財産をもらう方に一定の負担を負わせること
遺贈は契約ではなく、単独行為とされているので、受遺者の意思にかかわらず、遺贈者(財産を残す方)の意思表示によって成立します。
とはいっても要らないものを押し付けられても困るので、受遺者(財産を貰う方)は遺贈を放棄することができます。
ところで相続を放棄する場合は期間や方法が法律で厳密に決められていますが、遺贈の放棄についても同様なのでしょうか、それとも違うのでしょうか。
以下で遺贈の放棄の方法と注意すべき点を挙げていきます。
遺贈を放棄する方法と注意点
遺贈には、包括遺贈と特定遺贈の2種類があり、それぞれ放棄の方法や注意点が異なります。
包括遺贈を放棄する方法と注意点
包括遺贈とは「財産の3分の1を遺贈する」というように、財産の割合を指定して行う遺贈のことです。
そして包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有します。(民法第990条)
相続人と同一の「権利」だけでなく「義務」も負うことになるので、当然ながらプラスの財産だけでなくマイナスの財産も指定された割合で受け継ぐことになります。
もちろん負債がある事を理由に遺贈を放棄することはできるのですが、包括遺贈の放棄は、相続放棄と同様の期間や方法についての制限があります。
具体的には、以下のとおりです。
- 放棄の期限は、受遺者が自分のために遺贈の開始があったことを知ってから(自分が受遺者であることを知ってから)、3か月以内。
- 家庭裁判所へ申立てを行う必要がある。
- 包括遺贈の一部を放棄することはできない。(プラスの財産もマイナスの財産も全部まとめて放棄するしかない。)
- 単純承認したとみなされる行為や、3か月の熟慮期間の伸長などについても相続放棄についての規定が適用される。
包括受遺者は相続人と同様の扱いとなるため、いつでも自由に放棄が認められるとすると、債権者や他の相続人に迷惑がかかるため、このような制限が設けられているのです。
■家庭裁判所への申述方法
上記のとおり、包括遺贈を放棄するためには家庭裁判所へ申立てを行う必要があります。
その方法は基本的に相続放棄の場合と同じです。
【申立人】
包括受遺者(遺贈によって財産を貰う方)
【申立先】
遺言者の最後の住所地の家庭裁判所
※申立人の住所地ではありません。
管轄裁判所はこちらで確認できます。
【申立てに必要な費用】
・申立手数料 800円
※申立書に収入印紙を貼付して納めます。
・連絡用郵便切手 数百円~
※家庭裁判所によって異なります。詳しくは管轄裁判所にお尋ね下さい。
【申立てに必要な書類】
・申立書(裁判所のHPからダウンロードできます。)
・遺言者の戸籍(除籍)謄本(発行後3か月以内)
・遺言者の住民票除票又は戸籍の附票(発行後3か月以内)
・申立人の住民票又は戸籍の附票(発行後3か月以内)
・遺言書の写し
※事情によってはこの他にも書類が必要になる可能性があります。詳しくは家庭裁判所にお尋ねください。
申立書及び記入例は下記の裁判所ホームページからダウンロードできます。
相続放棄についての詳しい解説はこちら
特定遺贈を放棄する方法と注意点
特定遺贈とは「○○の不動産を○○に遺贈する」というように、特定の財産を指定して行う遺贈のことです。
包括遺贈と異なり、負債を受け継ぐことはないので、受遺者はいつでも放棄することができます。(民法第986条)
また家庭裁判所への申述の必要もなく、遺贈義務者(相続人)に対する放棄の意思表示で足ります。
ただし、特定受遺者がいつまでも遺贈を承認するのか放棄するのかを決めないままでいると、相続人は困ったことになるので、相続人は相当の期間を定めて、受遺者に遺贈を承認するか放棄するかを催告することができます。(民法第987条)
そしてこの期間内に受遺者が意思表示をしなければ遺贈を承認したとみなされます。
■放棄の意思表示の方法
特定遺贈放棄の意思表示の方法については、包括遺贈の場合のように厳格な決まりはなく、相手方に対して口頭で伝えることでも足ります。
とは言え、後でトラブルになることは避けたいでしょうから、できれば書面での意思表示が望ましいでしょう。
より万全を期すなら、内容証明郵便などの対外的に証拠が残る方法がベストです。
相続放棄と包括遺贈・特定遺贈の共通点と違い
相続放棄と、包括遺贈・特定遺贈の違いについて、まとめると以下の通りとなります。
相続放棄と包括遺贈・特定遺贈の放棄の違い
相続放棄 | 包括遺贈の放棄 | 特定遺贈の放棄 | |
---|---|---|---|
放棄対象 | すべての財産 | すべての財産 | 遺贈された財産 |
一部放棄 | できない | できない | できる(遺贈の内容による) |
放棄方法 | 家庭裁判所への申述 | 家庭裁判所への申述 | 相続人等への意思表示 |
放棄期限 | 相続があったことを知ってから3か月以内 | 受遺者であることを知ってから3か月以内 | 期限なし(利害関係人による催告制度あり) |
遺贈の放棄と相続放棄はあくまで別物
ところで遺贈は相続人に対しても行うことができます。
そして『遺贈を放棄した』=『相続放棄した』とはならないため、遺贈を放棄しても相続人の立場で遺産を相続することは全く問題ありません。
逆に言うと、受遺者の放棄後の財産は法定相続の対象となるため、どうしても放棄した財産を受け継ぎたくないなら、遺産分割協議によって他の相続人に承継してもらうことができない限り、相続放棄するしかないということになります。
また、相続放棄した方が特定遺贈で財産を取得することも可能です。
しかし、負債を受け継ぎたくないために相続放棄をして、プラスの財産だけを遺贈で貰うといった行為は「信義則違反」や「詐害行為」と裁判所に判断され、効力が否定される可能性が非常に高いでしょう。
遺贈の放棄についてその他に注意すべき点
遺贈の放棄にあたっては、その他にも下記のような点に気を付けましょう。
■遺贈者(遺言者)の生前に放棄することはできない(民法第986条)
遺贈の効力が発生するのは遺贈者の死亡時からなので、放棄できるのは遺贈者の死後です。
■遺贈された財産を処分した場合、包括遺贈の放棄はできない。(民法第921条)
包括遺贈については、相続人と同様の権利義務を持つことになるので、遺贈された財産を処分してしまった場合は、例え3か月の熟慮期間内であっても、放棄する事はできなくなってしまいます。
■遺贈の承認および放棄は撤回できない(民法第989条)
包括遺贈、特定遺贈いずれの場合も撤回できません。ただし相続放棄と同様、一定の場合には取消しが可能です。
まとめ
遺言によって受遺者として指定された場合も、遺贈を放棄することは可能です。
ただし包括遺贈の場合は相続放棄と同じように、期限内に家庭裁判所に申立てを行う必要があるので注意しましょう。
また、相続放棄と遺贈の放棄はあくまで別物なので、法定相続人の方が一切財産を受け継ぎたくない場合は、場合によっては遺贈の放棄とあわせて相続放棄も行う必要があります。
遺贈を受けたけど放棄すべきかわからない場合は、相続に精通した専門家に相談することをおすすめします。
また、遺言を遺す場合はもらった人が困ってしまわないよう、やはり専門家に相談してから作成することをおすすめします。
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