相続税対策を考える方は相続時精算課税制度を利用してはいけない
相続時精算課税制度とは
相続時精算課税制度とは、一人の贈与者からの贈与額のうち2500万円までは非課税とする課税方式のことです。
相続時精算課税制度を利用しない通常の贈与(暦年贈与)の場合、非課税枠は受贈者(もらう人)一人あたり110万円までなので、それと比べるとかなりお得な制度のように思えます。
相続時精算課税制度は相続税の節税には向きません
この制度を利用して相続税の節税対策を・・・と考えている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、この制度を利用して生前贈与をしても、残念ながら節税できるケースはほとんどありません。それどころかむしろ逆効果であることが多いのです。
本記事では、相続時精算課税制度を利用した贈与がなぜ節税にならないのかついて解説します。
じゃあ一体誰のための制度なのか、という所も含めて解説するので、制度の利用を考えている方は、この記事を読んで自分が利用に向いているかを考えた上で利用してください。
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相続時精算課税制度の概要
まずは、相続時精算課税制度とはどのような制度なのか、簡単に解説します。
相続時精算課税制度ってどんな制度?
相続時精算課税制度とは、全く知らない方に向けて簡単に言うと次のような制度です。
1.親や祖父母から子供や孫が生前贈与で財産をもらう場合
2.この制度を利用するとの申告をすれば
3.贈与額2500万までは非課税になる
4.ただし生前贈与した分は、財産をあげた人が亡くなった時に遺産と一緒に相続税が課税される。
これだけではよくわからないかも知れないので、それぞれについて少し解説します。
適用対象者
■贈与者(あげる人)の要件
贈与する年の1月1日時点で60歳以上の父母又は祖父母
■受贈者(もらう人)の要件
贈与する年の1月1日時点で20歳以上の子供又は孫
対象となるのは直系の子供や孫のみです。
子供の配偶者(夫や妻)への贈与は養子縁組をしていない限り適用されません。
養子縁組前に生まれていた養子の子への贈与についても同様です。
適用のための手続き
制度を利用するためには、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までの間(贈与税の申告書の提出期間)に、受贈者自身が所轄税務署に対して、制度の適用を受ける旨の申告をしなくてはなりません。
申告するのは受贈者(財産をもらった人)です、財産をあげた側ではないので注意しましょう。
申告時には次の書類が必要になります。
・贈与税の申告書
・相続時精算課税選択届出書
・受贈者の戸籍謄本等
・受贈者の戸籍の附票
・贈与者の住民票の写し
※場合によってはこの他の書類が必要になることもあります。くわしくは税務署にお問い合わせください。
なお、相続時精算課税制度の適用を受けるかどうかは贈与者一人ごとに選択します。
例えば、父からの贈与については制度を利用するが、母からの贈与については通常の暦年贈与で貰うとすることもできます。
逆に父と母からの贈与両方について適用を受ける場合は、それぞれ個別に申告をしなくてはなりません。
適用対象となる財産
適用対象となる財産の種類、金額、贈与回数について制限はありません。
一度制度を利用すると、その方からの贈与は亡くなるまですべて適用対象となり、贈与を受けた財産の合計が2500万円を超えるまでは非課税です。
2500万円を超える贈与を受けた場合の課税
制度の適用対象の方からもらった額の合計が2500万円を超えた場合、超えた部分に対して、一律20%の贈与税が課税されます。
なお、扶養義務者への教育費や生活費の贈与は、通常必要と認められる範囲のものであれば、贈与税の課税対象とならず、制度を利用した以後の贈与額にも加算されません。
ただし、課税・加算の対象外となるのは必要な都度贈与した場合のみです。
例えば大学の学費を4年分前もって贈与した場合は加算対象となります。
亡くなった後の課税
相続時精算課税制度の適用対象者が亡くなった場合、制度を利用して贈与を受けた財産は、遺産とともに相続税の課税対象となります。
この時生前に支払った贈与税があれば、相続税額から控除されます。相続税<贈与税となる場合は、申告すれば払い過ぎた分が還付されます。
贈与額と遺産総額を足しても、相続税の基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を下回る場合は相続税は課税されません。
なお、相続税の課税対象財産を評価する際、制度を利用して贈与を受けた財産については、贈与時の価額で計算します。
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相続時精算課税制度のデメリット
冒頭でお伝えした通り。相続時精算課税制度は相続税の節税という面ではデメリットが多く、おすすめできる制度ではありません。
以下、制度のデメリットについて具体的に解説します。
暦年贈与の110万円非課税枠が二度と使えなくなる
相続時精算課税制度の最大のデメリットはこれです。このデメリットだけで相続税対策としてはほぼ選択する意味がないと言ってもいいでしょう。
通常の課税方式による暦年贈与では、年間110万円までは非課税で贈与できます。
このことを利用して毎年110万円以下の贈与をすれば、贈与税の負担なく相続財産を減らして相続税を節税することが可能です。
110万円ずつ10年間贈与すればかなりの税額を減らすことができます。
ところが、相続時精算課税制度を選択すると、この相続税対策の基本中の基本と言ってもいい110万円の非課税を利用した対策を行うことができなくなってしまうのです。
一度この制度を選択すると、後で通常の課税方式に切り替えることはできません。
制度の適用を受けた以後の贈与は、たとえその年にもらった額が110万円以下でも、すべて加算されていきます。
加算された額の合計が2500万円を超えるまでは非課税ですが、亡くなった後に結局相続税の課税対象となってしまいます。
基本的に、この制度は相続税を節税するための制度ではなく、本来贈与時に支払うべき税金を先送りにできる制度だという事は知っておきましょう。
※令和5年度税制改正による変更点
2024年以降の贈与については、相続時精算課税制度を利用した場合でも年間110万円までは非課税で贈与できることになりました。(くわしくはこちら)
暦年贈与による節税方法についてくわしくはこちらをご覧ください。
贈与を受ける度に申告が必要になる
これも、大きなデメリットの一つです。
通常の贈与の場合、年間にもらった額が110万円以下であれば贈与税は非課税であり、申告も不要です。
しかし相続時精算課税制度の適用を受けた人からの贈与については、贈与を受けるたびに申告が必要です。
もらった額が5万円でも10万円でも申告しなくてはなりません。(もっとも、教育費や生活費の都度贈与はもとから非課税なので申告不要ですが)
申告をしないと今までのもらった額の累計がわからないので、当然と言えば当然なのですが、特に自分で確定申告をしないサラリーマンの方にとっては結構な負担になるかもしれません。
ちなみに、制度の適用対象の贈与を受けたにもかかわらず、期限内に申告し忘れた場合(あるいはわざと申告しなかった場合)、2500万円の枠内に収まる贈与であっても一律20%の贈与税が課されてしまいます。
例えば、前年までに2000万円の贈与を受けていて、今年100万円の贈与を受けたにもかかわらず期限内に申告しなかった場合、100万円×20%=20万円もの税金が課税されます。
通常の贈与であれば申告をしなくても非課税だったことを考えると、これは結構痛いのではないでしょうか。
※令和5年度税制改正による変更点
2024年以降の贈与については、相続時精算課税制度を利用した場合でも年間110万円までは非課税のため、申告不要となりました。(くわしくはこちら)
小規模宅地等の特例が使えなくなる
これは、土地を贈与する場合に想定される大きなデメリットです。
小規模宅地等の特例とは、一定の条件を満たす居住用や事業用の宅地を、配偶者や同居親族等が相続または遺贈によって取得した場合、相続税の評価額を最大80%も減額できるというかなり節税効果の高い特例です。
地価の高い都市部では、正味の遺産額が基礎控除を超えていても、この特定の適用により税額がゼロになるというケースは多いです。
ところが、相続時精算課税制度を利用して贈与を受けた土地については、相続税の申告の際に小規模宅地等の特例の適用を受ける事はできません。
『相続または遺贈による取得』ではないというのがその理由で、例えその他の適用要件を満たしていても、この特例の適用を受けることはできないのです。
土地の評価額によっては数千万円単位で納税額が変わってしまうこともあるので、特に居住用不動産を贈与する場合は、本当にメリットがあるか慎重な判断が必要です。
贈与税が一定額まで非課税になる他の特例の利用なども検討すべきでしょう。
小規模宅地等の特例についてくわしくはこちら
贈与時から財産の価値が下がると税金の負担が大きくなってしまう。
相続時精算課税制度制度を利用して贈与を受けた財産については、贈与者が亡くなった後、相続税の課税対象財産を評価する際、贈与時の価額で計算することになります。
このため、贈与時と比べて不動産や株式の価額が下がった場合は、本来の財産価値に比べて高い税金を支払う羽目になってしまいます。
特に株式の場合、業績悪化等により価値が大きく変動する可能性があるので、下手をすれば価値が0円のものに対して高額な相続税を収めることになるかもしれません。
価値が変動する可能性の大きい財産については、贈与する時期を慎重に見極める必要があります。
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孫に贈与した場合は相続税が2割加算される
これは意外と見落としがちなデメリットです。
配偶者又は一親等内の血族(子供または両親)以外の方が、相続または遺贈によって財産を取得した場合、その人の相続税の納税額に2割が加算されます。
孫は血族二親等なので2割加算の対象になります。(代襲相続人として相続する場合を除く)
一方、贈与税はあげる人ともらう人の関係によって税率は異なりますが、2割加算のような特例はありません。
むしろ20歳以上の孫に贈与する場合は低い方の税率が適用されるのでお得です。
相続時精算課税制度を利用した場合に支払うのは、贈与税ではなく相続税なので、生前贈与された財産以外に孫が遺産を取得しないのであれば、余計な税金を支払うことになります。
『じゃあ孫を養子にしてしまえばいいのでは?基礎控除額が増えて節税にもなるし』と思われるかもしれませんが、(代襲相続人ではない)孫を養子にした場合も2割加算は適用されます。
さらに孫への贈与は、本来であれば相続開始前3年以内(令和5年度税制改正により7年以内に延長)の持ち戻しルールは適用されませんが、この制度を利用した場合は贈与の時期に関わらずすべて相続税の課税対象となってしまいます。
孫への贈与を考えている方は、この制度の利用は適当ではないかもしれません。
財産移転のためのコストが高くつく
不動産を贈与する場合に見落とされがちなデメリットです。
不動産を贈与する場合、登記名義の変更が必要になります。
登記の際には登録免許税という税金を納めなくてはならないのですが、この登録免許税は、相続の場合は固定資産評価額の0.4%であるのに対して、贈与の場合は2%になります。
不動産の価額によっては数十万円の違いになることもあるので、馬鹿にできません。
さらに相続による取得ではかからない不動産取得税も課税されてしまいます。
軽減措置によって納税額ゼロ円になることもあるとはいえ、固定資産評価額の3~4%というのはかなり痛い出費でしょう。
贈与を受けた財産で相続税を物納することはできない
相続税を現金で納めることができない場合、相続した財産を代わりに納めることができます。(物納できる財産には制限があります)
人の死はコントロールできないため、相続が発生した時期や相続財産の性質等によっては金銭での納付が困難な場合もあります。物納はそのような場合に例外的に認められている制度です。
しかし、相続時精算課税制度を利用して贈与された財産は物納することはできません。
相続時精算課税制度を利用した場合は、あらかじめ相続時に課税されることがわかっているため、物納を認めるのは適当ではないからです。
不動産など換価が容易でない財産を贈与する場合は、同時に納税資金についても考えておかなくてはなりません。
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税制改正による2024年以降の変更点
令和5年度税制改正により、相続時精算課税制度についても基礎控除枠が創設されることになり、年間110万円までは非課税で贈与できることになりました。
相続時精算課税制度を選択した人への贈与でも、貰った額が年間110万円以下であれば贈与税の申告も不要となります。
改正後の制度が適用されるのは2024年以降の贈与についてです。(2023年12月31日までの相続時精算課税制度を利用した贈与については、全額が相続税の課税対象となります。)
また、令和5年度税制改正では、暦年贈与に関する相続財産への持ち戻し期間が従来の相続開始前「3年以内」から「7年以内」に延長されました。
今後、生前贈与による節税効果はより限定的になってくると思われるので、生前贈与以外の節税対策も検討し、より効果的な方法を選択する必要があります。
相続時精算課税制度を利用して相続税対策になるケース
上記のように、相続時精算課税制度を利用しても節税対策にはならないケースがほとんどですが、制度を利用して節税できるケースもあります。
収益不動産の贈与
収益を生む賃貸不動産を贈与すれば、贈与後の賃料はすべてもらった人のものなので、賃料収入の蓄積による財産の増加を防ぎ、節税することができます。
また賃料収入が無くなった結果、贈与者の所得税が減り、その額が受贈者の所得税の増加分より大きければ、家族全体で考えると節税できたことになります。
とは言え、制度を利用せずに贈与すれば、賃料収入も110万円までは非課税で贈与することが可能です。
制度を利用するにあたっては、他の節税対策との兼ね合いも含めて慎重に検討すべきでしょう。
将来確実に価値が上昇する財産の贈与
相続時精算課税制度を利用して贈与を受けた財産の相続税評価額は、贈与時の価額によって算定されます。
したがって、将来値上がりすることが確実な財産を贈与すれば、相続時より割安な税金で移転できたことになります。
例えば、次のような財産です。
・近い将来、市街化区域に編入されることが確実な土地
・近い将来、近隣に大きな駅や道路、商業施設などができることが確実な土地
・業績が順調で、今後も安定して伸びそうな会社の株式(特に自社株式)
これらの財産があり、かつ贈与税を支払っての贈与が難しい場合は、制度を利用しての贈与が有効な節税対策になるでしょう。
ただし上がり幅が少なければ、長期的に見ると他の対策の方が有効だったという事もありえるので、値上がりの見込みについては慎重に判断する必要があります。
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じゃあ誰のための制度なのか
ここまで、主に相続時精算課税制度のデメリットを取り上げ、この制度を利用して節税対策になるケースはほとんどないと言ってきました。
そうなると皆さん、『じゃあ一体誰のための制度なんだ』と思われたかもしれません。
もちろんこの制度はデメリットばかりではありません。むしろ正しく趣旨を理解して利用すればメリットの大きいとてもいい制度です。
相続時精算課税制度の最大のメリットはなんといっても
『2500万円までは非課税で贈与できる』ことです。
そして、この制度は基本的には相続時まで税金の支払いを先延ばしにする制度ですが、
『贈与財産と遺産の合計が基礎控除額以下の場合は相続税も非課税』です。
財産の合計が基礎控除額以下の方、言い換えれば相続税申告が不要な方は、節税効果があるかどうかを気にする必要はありません。
そんな方にとってこの制度は、贈与税の負担なく大きな額をまとめて贈与できる、とてもありがたい制度でしょう。
つまりこの制度は
『相続税対策が不要な方のための制度』
と言っていいでしょう。
相続時精算課税制度は相続税申告が不要な方にはおすすめできる制度
亡くなった方すべてが相続税申告の対象になるわけではありません。
相続税申告が必要な方は全体の1割程度と言われており、むしろ大半の方は申告する必要がないのです。
相続税の節税効果を気にしないのであれば、この制度が役に立つケースは多いでしょう。
例えば、資産総額3500万円の方が、
『事業を立ち上げる息子のために500万円ほど贈与したい』
と考えた時、通常の贈与であれば、息子は贈与額の1割近い48万5000円もの贈与税を納めなければなりませんが、この制度を利用すれば1円も税金を納める必要は無いのです。
そもそもこの制度は、高齢者の保有する資産を有効活用して経済を活性化させるために、次世代への早期の財産移転を促進することを目的として創られた制度です。
贈与税が非課税になる特例は他にもありますが、他のどの特例よりも非課税枠は大きく、贈与された財産の使い道も自由です。
申告は必要ですが、それ以外に面倒な手続きをする必要はありません。
相続税対策が不要な方は、制度の狙い通り、若い世代への財産移転をどんどん行って、資産を有効活用してみてはいかがでしょうか。
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相続時精算課税制度を利用した節税以外の相続対策
相続時精算課税制度は、相続税の節税という面では効果があるケースはほとんどありませんが、節税以外の相続対策としては有効に活用できる場面も多いです。
具体的には以下のような場合です。
財産の早期移転による有効活用
例えば、まだ若くやる気と情熱にあふれた子供や孫に、まとまった額を贈与して事業を援助する。あるいは投資その他の資産運用を任せてみるといったケースです。
もちろん失敗のリスクはありますが、上手くいけばもともとの資産より大きな額を次世代以降に引き継がせることができるかもしれません。
また、高齢のため賃貸物件の管理を行うことが難しくなった方が、子や孫に早期に財産移転することで、家主・地主としての責任を与えるとともに、管理・運営のノウハウを伝えると言うケースもあるでしょう。
財産の確実な承継
例えば、先祖代々受け継いだ土地を、確実に直系血族に受け継がせたい場合です。(家督相続型の財産承継と言います。)
子供が2人いて、一人は子供(孫)がいるが、一人は配偶者はいるが子供がおらず、年齢的に今後も望めないという場合、そのまま相続が発生すると、最終的に子供がいない方の配偶者やその親族に土地がわたってしまう可能性があります。
そこで、土地を孫へあらかじめ生前贈与しておけば、少なくとも孫の代までは直系血族に受け継がせることができます。
遺言によっても対策は可能ですが、贈与は遺言と異なり、あげる人ともらう人との契約行為なので、次世代にも同じように確実に財産を受け継せてほしいとの意思を、より明確に伝えることができるでしょう。
なお、上記の事例のような家督相続型の財産承継については、家族信託の仕組みを利用すればより確実かつ柔軟に承継させることができます。
贈与や遺言による財産承継を検討中の方は、一度家族信託の専門家へ相談してみることをおすすめします。
中小企業の事業承継対策
こちらは節税対策とその他の対策を兼ねるケースです。
例えば、以下のような事例です。
【贈与者・被相続人】
父(中小企業のオーナー社長)
【相続人】
長男(跡継ぎ)、次男、三男 の3人
【現時点での財産】
・自社株式5000株(未公開株:評価額5000万円)
・不動産(評価額1億円)
・預貯金(総額1億円)
上記のケースで、現時点では株式の評価額は5000万円程度だが、事業が順調なため今後数年で4倍程度(2億円)まで上昇することが見込まれるとします。
他の資産に変更はないとして、そのまま相続が発生すると4億円に対して課税されるため相続税はかなり高額になります。
安定した経営のためには株式の分散は避けるべきなので、自社株式はすべて長男が相続するとします。
その代わりに次男三男がそれぞれ不動産と預貯金を相続するとなると、長男が相続する株式2億円にかかる相続税の納税資金が手元にないという事もあり得ます。
株式を処分して捻出しようにも、非公開株式では買い手を見つけるのも難しく、経営権を奪われるリスクもあります。
そこで株式の評価が低い今のうちに、相続時精算課税制度を使って長男に自社株式を贈与をしておけば、相続税は贈与時の株式の評価額5000万円で計算されるので、負担はかなり小さくなります。
このケースでは生前に支払った500万円の贈与税も控除できます。また、株式分散による経営上のリスクも避けることができます。
中小企業のオーナー社長の方で、今後事業の成長による評価額の大幅な上昇が見込まれる場合には、相続についての対策も早めに準備しておきましょう。
遺留分対策としての贈与
中小企業オーナーの場合、遺留分対策として相続時精算課税制度を利用するというケースも考えられます。
例えば、以下のような事例です。
【贈与者・被相続人】
父(中小企業のオーナー社長)
【相続人】
長男(跡継ぎ)、次男、三男 の3人
【現時点での財産】
・自社株式5000株(未公開株:評価額5000万円)
・不動産(評価額3000万円)
・預貯金(総額4000万円)
このケースで、相続開始時点で不動産及び預貯金の額に変更はなく、自社株式の評価が2億円まで上昇していたとします。
資産総額は2億7000万円なので相続人3人の法定相続分はそれぞれ9000万円ずつとなり、次男及び三男は不動産や預貯金を取得しただけでは自分の取り分に足りません。
長男に5000万円の時点で自社株式すべてを生前贈与したとしても、次男及び三男はそれぞれ遺留分を請求する権利を持っています。
遺留分算定の基礎となる株式の評価額は、贈与時点の5000万円ではなく相続開始時点での2億円で計算されます。
それぞれの遺留分は4500万円ずつとなり、やはり不動産や預貯金では足りません。
この状態で次男三男から遺留分を請求された場合、代償として支払う金銭がなければ、自社株式の一部を渡すか、売却等によって資金を捻出しなくてはなりません。
そうなると経営上のリスクが生じます。
そこで、次男及び三男には現時点での遺留分相当額2000万円の財産を、それぞれ生前贈与します。
この時、相続時精算課税制度を利用すれば贈与税の負担なく贈与することができます。
さらに家庭裁判所の許可を得て次男三男に遺留分を放棄させます。
自社株式は生前贈与するか、遺言によって長男に取得させます。
こうすることで、株式分散や経営上のリスクはなくなります。
また、次男三男にとっても、会社経営に関わるつもりがなければ、早期に確実にまとまった額をもらえるというメリットは大きいと思われます。
なお、このケースでは民法の特例による除外合意・固定合意の手続きを利用することも考えられます。
遺留分の放棄についてくわしくはこちらの記事をご覧ください。
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相続時精算課税制度は相続税の節税を考えるのであれば、ほとんどの場合、利用すべきではありません。
一方、相続税の申告が必要のない方にとっては、税金の負担なく高額の贈与ができる良い制度なので、まとまった額の贈与をする場合にはぜひ利用すべきでしょう。
また、相続対策は節税だけがすべてではありません。
申告が必要になりそうな方でも、制度の趣旨をしっかり理解した上で、デメリット以上にメリットを感じられるのであれば、制度を利用して生前贈与してもいいでしょう。
当事務所では、税理士などとも連携して総合的な相続対策をご提案することが可能です。ご依頼を検討中の方のご相談は無料です。
記事の内容や相続手続の方法、法的判断が必要な事項に関するご質問については、慎重な判断が必要なため、お問い合わせのお電話やメールではお答えできない場合がございます。専門家のサポートが必要な方は無料相談をご予約下さい。
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