相続放棄の落とし穴(1)ー相続放棄の連鎖ー

相続放棄の落とし穴とは?

亡くなった方に借金などの多額の負債があった場合、相続人の方はまず相続放棄を検討するでしょう。

相続放棄には3か月以内という期間制限があり、のんびりしていると手遅れとなってしまうため、素早く対応しなくてはなりません。

相続放棄は連鎖することが多い

しかし、とにかく放棄できればOKと思って放棄をすると、後で思わぬ問題に発展することがあります。

今回は、そんな相続放棄をしたことによって発生する問題点について解説します。

※相続放棄とは?

相続人が遺産を放棄して相続しないこと。放棄した人ははじめから相続人とならなかったものとみなされる。家庭裁判所に申述して放棄する。

相続放棄することによって起こりうるその他の問題点についてはこちら

この記事を読むとわかること
  • 相続放棄をした場合の相続権の行方
  • 相続放棄をする際にしておいた方が良い事
目次

相続放棄をすると相続権はどうなる?

亡くなった後のいろいろな手続きも終わり、無事に相続放棄も認められ、一安心・・・と思っていたら、思わぬトラブルに巻き込まれることがあります。

そもそも、自分が相続するはずだった権利義務は相続放棄をするとどうなるのでしょうか?

相続をする権利は法律で優先順位が決められている

相続をする権利は民法で優先順位が決められています。

その順位は下記の通りです。

法定相続人の順位

法定相続人順位
配偶者(妻・夫)なし(常に相続人になる)
子(亡くなっている場合は孫)第1順位
直系尊属(父母、場合によって祖父母等)第2順位
兄弟姉妹(亡くなっている場合は甥姪)第3順位

配偶者は常に相続人となりますが、それ以外の方は優先順位の高い方のみが相続人となります。

たとえば、夫婦と子供2人の4人家族で夫が亡くなった場合は、夫の父母やきょうだいが健在であっても、妻と子供のみが相続人になります。

亡くなった方に子や孫がいる場合は、子や孫より優先順位の低い父母や兄弟姉妹は相続人になれないということです。

亡くなった方に子も孫もいない場合にはじめて第2順位である父母(直系尊属)に相続権が発生します。

さらに直系尊属は、もっとも親等の近いもののみが相続人になるため、父母のどちらかが存命であれば祖父母は相続人にはなれません。

亡くなった方に子も孫もいなくて、父母も祖父母も(その上の世代も)すべて亡くなっている場合にはじめて、第3順位である兄弟姉妹や甥姪に相続権が発生することになります。

相続放棄をすると相続権は他の権利者へ移る

以上が相続をする権利についての基本的な考え方になりますが、それでは相続放棄をした場合にこの順位に影響はあるのでしょうか?

この点については民法に規定があります

(相続の放棄の効力)

民法第939条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす

引用:民法|法令データ提供システム – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

「はじめから相続人とならなかったものとみなす」ということはつまり、相続放棄をした方については、はじめからいなかったものとして相続の順位や各自の法定相続分を判定することになります。

もう少し具体的に言うと下記の通りの考え方となります。

●配偶者が放棄した場合

  • 他の相続人の取り分(法定相続分)が増える。
  • 他の相続人の順位には影響なし。
  • 他に相続人が誰もいなければ相続人不存在となる。

●子供や孫が放棄した場合

  • 同順位の他の相続人(子や孫)の取り分が増える。
  • 同順位の他の相続人がいない場合は次順位の相続人に権利が移る。

●父母や祖父母が放棄した場合

  • 父母(祖父母)が放棄した場合は、残りの父母(祖父母)の取り分が増える。
  • 父母(祖父母)のすべてが放棄した場合(すでに亡くなっている場合含む)は、一つ上の世代(祖父母、曽祖父母)に権利が移る。
  • 上の世代が一人もいない場合は次順位の相続人に権利が移る。

●兄弟姉妹や甥姪が放棄した場合

  • 同順位の他の相続人(子や孫)の取り分が増える。
  • 同順位の他の相続人がいない場合は、配偶者がいれば配偶者の総取り、配偶者がいなければ相続人不存在となる。

ちなみに、相続放棄をすると初めから相続人でなかったものとみなされるので、代襲相続の適用はありません。

代襲相続は本来の相続人(親)が受けるべき権利を前提とするものなので、親が相続人でなくなる以上、その子供も初めから相続人でなかったことになるからです。

相続放棄と代襲相続の関係についてくわしくはこちらをご覧ください。

相続放棄したことはあなたしか知らない

さて、上記のとおり相続放棄をすると他の相続人の方に自分の相続権は移るわけですが、これによってどのようなトラブルが起こりえるのでしょうか?

よくあるのが、相続放棄することを事前にも事後にも伝えていなかったため、放棄後に新たに相続人となる方と揉めるケースです。

同順位の相続人の方であればもともと自分も相続人であることは知っていたので、他の方が放棄することも予想でき、対処は難しくないでしょう。

しかし先順位の方が放棄したことによって新たに相続人となる方(直系尊属や兄弟姉妹、甥、姪など)の場合、亡くなったことは知っていても、自分は相続人ではないので遺産については気にもしていなかったという事が普通です。

それがある日債権者から督促状が届き、故人の借金および相続放棄によって自分が相続人となった事実を知った、となれば寝耳に水の事態です。

相続放棄しようにも死亡から3か月たっているから放棄できなさそうだしどうしよう・・・

と途方に暮れてしまうかもしれません。

※実際には相続放棄の期限は、『(先順位の相続人が相続放棄した結果)自分が相続人になったことを知ってから3か月以内』なので、こういった事情であれば放棄できることが多いです。

心情的にも、相続放棄するならするでひとこと言ってくれればよかったのに・・・とおもしろくはないでしょう。今後の関係もこじれてしまうかもしれません。

もちろん法的には、次に相続人となる方に相続放棄の事実を伝える義務はないのですが、いきなり借金を背負うことになるかもしれない、という立場を考えれば、やはり道義的には、事前に相続放棄することを伝えておいた方がいいと思います。

なお、他の相続人と絶縁状態であるとか、連絡先がまったく分からないといった場合には、そもそもこじれるだけの関係も無いでしょうから、無理に連絡を取る必要はないでしょう。

相続放棄は連鎖する

相続放棄する場合というのはプラスの財産をマイナスの財産が上回るときがほとんどです。

ということは誰にとっても放棄せずに相続するメリットは薄いはずです。

あなたが相続放棄したときは他の方もやはり放棄する可能性が高いです(さらにその次の方も・・・と連鎖していくことが多いです)。

残念ながら今のところ、家庭裁判所から次順位相続人への通知といった制度はありません。

相続放棄する場合は、相続財産の内容と放棄することを伝えるとともに、その方にも放棄することを勧めてみた方がいいかもしれません。

あらかじめ知っていれば、考える時間も放棄の手続きを取る時間も十分にとれるでしょうから。

当事務所で相続放棄をご依頼いただいた方は、次に相続人となる方への通知を代行することも可能です。ご依頼を検討中の方のご相談は無料です。

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この記事の執筆者

司法書士法人東京横浜事務所
代表 田中 暢夫(たなか のぶお)

紹介年間100件以上の相続のご相談・ご依頼に対応している相続専門の司法書士。ミュージシャンを目指して上京したのに、何故か司法書士になっていた。
誰にでも起こりうる“相続”でお悩みの方の力になりたいと、日々記事を書いたり、ご相談を受けたりしています。
九州男児で日本酒が好きですが、あまり強くはないです。
保有資格東京司法書士会 登録番号 第6998号
簡裁訴訟代理認定司法書士 認定番号 第1401130号

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