相続放棄の落とし穴(2)ー相続放棄と遺産分割協議ー

相続しないなら相続放棄するしかない?

相続放棄は、法的手続きにのっとって故人の財産を正式に放棄する唯一の方法です。

相続放棄をしなければ、法律上相続人となってしまうため、多額の借金がある場合や、感情面での問題から財産を絶対に受け継ぎたくない場合は、早めに相続放棄の手続きを取りましょう。(相続放棄には3か月以内という期間制限があります。)

相続放棄をしない方がいい場合もあります

しかし、負債を受け継ぎたくない等とは別の理由で、相続放棄の性質をよく理解しないまま放棄してしまうと、後で取り返しのつかないことになってしまう場合があります。

前回に引き続き、相続放棄をしたことによって発生する問題点について解説します。

※相続放棄とは?

相続人が遺産を放棄して相続しないこと。放棄した人ははじめから相続人とならなかったものとみなされる。家庭裁判所に申述して放棄する。

相続放棄によって起こりうるその他の問題点についてはこちら

この記事を読むとわかること
  • 相続をしない場合に必ず相続放棄をしなければならないわけではない
目次

お母さんにすべて相続させるつもりが・・・

相続放棄はプラスもマイナスも一切の財産を受け継がないための手続きです。

主に借金などの負債がある場合に選択すべき手段で、負債が無い場合や、マイナスよりプラスの財産の方が明らかに多い場合にはあまり使われることはありません(皆無というわけではありませんが)。

しかし、たまに誰か特定の相続人一人に財産をすべて相続させたいため、他の相続人は相続放棄をする。

というやり方を考える(そして実際にやってしまわれる)方がいます。

ところが相続放棄によって誰が相続人となるかを知らないと、期待とは全然違う結果になってしまいます。

例えば次のようなケースです。

・故人には妻と子供が2人いる。遺産は夫婦で暮らしていた家のみ。子供は2人ともすでに独立済み。

・相談の結果、不動産を共有名義にするのは好ましくないので、母(故人の妻)がすべて相続することにして子供たちは2人とも相続放棄することにした。

このまま相続放棄するとどうなるでしょう。

相続放棄するとその方ははじめから(被相続人の死亡時から)相続人ではなかったことになるので、

民法で定められた順番に従って、後順位の相続人がいればその方が相続人になります。

その順位は下記の通りです。

法定相続人の順位

法定相続人順位
配偶者(妻・夫)なし(常に相続人になる)
子(子が亡くなっている場合は孫)第1順位
直系尊属(父母、場合によって祖父母等)第2順位
兄弟姉妹(亡くなっている場合は甥姪)第3順位

 >法定相続人・法定相続分についてくわしくはこちら

つまり故人の父や母、兄弟姉妹が存命であれば、相続放棄した結果、優先権が移り、その方が遺産の一部について相続する権利を持ってしまうのです。

こうなってしまうといざ不動産について相続登記をしようにも、そのままでは単独名義の登記はできません。

妻の単独名義にするためには、妻と新たに相続人となった人との間で遺産分割協議を行う必要があるのです。

これは余計な手間ですし、新たに相続人となった方が協議に応じず、遺産について権利を主張してきたら大変なことになります。

遺産をまとめるつもりなら遺産分割協議を

では上記のケースではどうすればよかったのでしょうか?

この場合ははじめから妻と子供たちの間で、妻がすべて相続する旨の遺産分割協議を行えばよかったのです。

また上記のケースでも、子供の1人にすべて相続させるつもりで妻と他の子供が相続放棄をする、ということであれば、形式上は望んだとおりの相続ができることになります。

しかし相続放棄の手続きにかかる手間と費用がやはり無駄です。

このように相続人のうちの誰かに遺産をまとめるために相続放棄をする。というやり方は基本的にはお勧めできません。

法定相続人のうちの誰かが相続するなら相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成しましょう。

遺産分割協議の注意点や遺産分割協議書の作成方法についてくわしくはこちら

相続放棄でお悩みの方は専門家へ相談を!

相続人のうちの誰かに財産をまとめるために相続放棄をすると、手間や費用が無駄にかかるばかりか、取り返しがつかなくなってしまう事さえあります。

相続放棄は一度受理されると原則として撤回はできません。(錯誤による取り消し等が認められることはありますが、上記のようなケースでは認められないでしょう。)

上記のケースでは相続放棄をする前に、相続登記や相続手続きについて司法書士に相談しておけば、より良い方法を提示してくれたことでしょう。

また、割合は少ないですが、財産を特定の方に受け継がせるために相続放棄を選択すべきケースというのも存在します。(子が先に亡くなった時に親が相続放棄して他の子供に相続させるケースなど)

しかしそのような場合でも、相続放棄によって得られるメリットとデメリットを比較検討して慎重に判断する必要があります。

相続放棄すべきかわからない方や、正しい遺産分割の方法がわからない方は、一度相続に精通した司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。

相続放棄や遺産分割協議についてのご相談は当事務所で承ります。ご依頼を検討中の方のご相談は無料です。

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この記事の執筆者

司法書士法人東京横浜事務所
代表 田中 暢夫(たなか のぶお)

紹介年間100件以上の相続のご相談・ご依頼に対応している相続専門の司法書士。ミュージシャンを目指して上京したのに、何故か司法書士になっていた。
誰にでも起こりうる“相続”でお悩みの方の力になりたいと、日々記事を書いたり、ご相談を受けたりしています。
九州男児で日本酒が好きですが、あまり強くはないです。
保有資格東京司法書士会 登録番号 第6998号
簡裁訴訟代理認定司法書士 認定番号 第1401130号

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