相続人全員が相続放棄をするとどうなる?相続財産の行方
全員が相続放棄すると相続財産はどうなる?
相続放棄は亡くなった方に多額の借金があるときに選択することが多いですが、遺産の中に維持管理が困難で売却も難しい不動産がある場合も、相続放棄を選択することがあります。
全員が相続放棄!どうなる?
相続放棄をすると他の相続人に相続権が移りますが、その結果関係者全員が相続放棄した場合、相続財産、特に不動産は誰が管理して、どのように処分されるのでしょうか?
ここでは、相続人全員が相続放棄した場合の財産の行方や、相続人の責任についてくわしく解説します。
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相続放棄とは
相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)が持っていた一切の権利義務を放棄することです。
相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったとみなされ(民法第939条)、プラスの遺産も相続できない代わりに、借金などの債務からも逃れることができます。
相続放棄をすると、自分の相続権は他の相続人に移ることになります。
相続放棄をするためには、相続開始を知ったときから3か月以内に家庭裁判所へ申立てを行う必要があります。
また、相続人には相続財産の管理義務が課せられており(民法第918条)、相続放棄した後も、「放棄によって相続人となった者」=「同順位や次順位の他の相続人」が財産の管理を始めることができるまでは、財産管理を継続しなくてはなりません。(民法第940条)
参考 (相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
引用:民法|e-Gov法令検索
相続放棄についてくわしくはこちら
相続する方がいる場合はその方が財産を引き継ぐ
上記のとおり、相続放棄をすると他の相続人に相続権が移ります。
他の相続人が相続をした場合は、当然その方が管理義務も含めて財産を引き継ぐことになります。
相続放棄をした人が管理していた不動産などの財産が有れば、相続する方に引き渡して終了です。
しかし、相続放棄する場合というのは相続するメリットをデメリットが上回ることがほとんどであり、誰にとっても相続するメリットは薄いはずです。
最初の相続人の方が相続放棄した後、次に相続人となった方もやはり放棄して、さらにその次の方も・・・と相続放棄の連鎖となることも多いです。
ではそのようにして相続人の全員が相続放棄した場合、最終的に相続財産はどうなるのでしょうか?
相続人全員が相続放棄するとどうなる?
誰も相続したくないという事で、相続権を有する関係者全員が相続放棄した場合、相続財産は、また管理義務はどうなるのでしょうか?
この点、誰も相続人がいない場合は、相続財産は法人となります。(民法第951条)
その後、相相続財産管理人選任の手続きを経て、家庭裁判所によって相続財産管理人が選任されます。
そして相続財産管理人によって債権者や受遺者に弁済がなされます。
相続放棄するぐらいですからこの時点で財産は残らないかもしれませんが、残った場合は、故人と関係が深く、遺産を受けるのにふさわしい人(特別縁故者といいます。内縁の妻などがこれにあたります。)を募り、財産分与されます。
それでも財産が残った場合は最終的に国(国庫)に引き継がれます。(相続財産が共有物の場合は他の共有者に帰属します)
という事は、全員が相続放棄をすれば最終的には国が引き取ってくれるので、管理義務からも解放されてめでたしめでたし、と考えるかもしれませんが、そう簡単にはいきません。
参考 (残余財産の国庫への帰属)
第九百五十九条 前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第九百五十六条第二項の規定を準用する。
引用:民法|e-Gov法令検索
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管理義務から逃れるためには相続財産管理人の選任が必要
確かに、相続人のいない不動産は最終的には国に帰属すると法律上は定められています。
しかし、相続財産を国に帰属させるためには前提として、相続財産管理人選任の申立てを行い、相続財産管理人が所定の手続きを行う必要があります。
相続財産管理人が選任された後は、管理義務は相続財産管理人が負うので、相続人一同は管理義務からは解放されます。
しかし、相続財産管理人は家庭裁判所が勝手に選任してくれるわけではなく、利害関係人の請求がない限り選任されることはありません。
債権者が債権回収のため選任の申立てを行うことはありますが、申立ての際、通常は数十万から100万円程度の予納金(申立人が負担)が必要になります。
不動産以外に預貯金などの財産がなく、不動産の価値も低い場合は、費用倒れになるので申立てはしないでしょう。
そして誰も申立てしなければ、所有者不在となった不動産の管理義務はいつまでも元相続人が負うことになります。
国は不動産を簡単には引き取ってくれない?
また、仮に予納金を納めて申立てをしたとしても、価値のない不動産を簡単に国が引き取ってくれるわけではありません。
誰も欲しがらないような価値のない不動産を引き取っても管理の手間や費用がかかるだけなので、国としてもできるだけ引き取りたくないのです。
少なくとも以前は、不動産のまま国庫へ帰属させようとしても、引き受ける側の財務省から境界確定や建物の取り壊しを求められるため、相続財産管理人において何とか引き取り先を探して清算することが多いというのが制度の実情でした。
ほとんどのケースでは確定測量や取り壊しにかかる費用を払うだけの相続財産はありません。
引き取り手が見つからなければいつまでたっても相続財産管理人の業務は終了せず、管理人の報酬を負担し続けなければならない可能性もあります。
※相続財産管理人の報酬は相続財産や予納金から支払われます。
相続財産管理人は司法書士や弁護士などの専門家が選ばれることがほとんどで、報酬は毎月1~5万円程度です。
こうなると、相続放棄をして管理義務のみを負い続けるか、あるいは相続して固定資産税を支払い続けながら引き取り先を探す方が、経済的負担は少ないという事もあり得るでしょう。
というのが以前の制度運用の実情でしたが、その結果所有者不明の土地や放置される空き家が増えていることは国も問題視していました。
そこで平成29年に「国庫帰属不動産に関する事務取扱について」という文書が出され、引き取り手がない相続人不在の不動産について、確定測量が未了等の理由では国庫への帰属を拒否できないことが明記されました。
この運用が徹底されれば国から引き取りを拒否される事は少なくなると思われます。
しかし、相続財産管理人選任の申立ての際には高額の予納金が必要なため、財産管理義務から逃れるためのハードルは依然として低いとは言えません。
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相続財産管理人を選任してもらうための手続とは?
ここまで述べた通り、相続人全員が相続放棄した後に、財産管理義務からも完全に逃れるためには「相続財産管理人選任の申立て」を行う必要があります。
以下、手続きの概要や注意点について解説します。
相続財産管理人選任申立て手続きの概要
相続財産管理人は、家庭裁判所に対して申立てを行い、選任してもらいます。
申立ての際には必要書類として、大量の戸籍謄本や、財産に関する資料、利害関係人であることを証する資料をそろえる必要があります。
一般の方では難しいケースがほとんどなので、司法書士や弁護士に手続きを依頼することをおすすめします。
手続きの概要は以下の通りです。
■申立人
・利害関係人(被相続人の債権者、特定遺贈を受けた者、特別縁故者など)
・検察官
■申立先
被相続人の最後の住所地の家庭裁判所
管轄裁判所はこちらで確認できます。
■申立てに必要な費用
・申立手数料 800円
※申立書に収入印紙を貼付して納めます。
・連絡用郵便切手 数百円~
※家庭裁判所によって異なります。詳しくは管轄裁判所にお尋ね下さい。
・官報公告料 4,230円
※家庭裁判所の指示があってから納めます。
・予納金 事案により50万円~100万円程度
※家庭裁判所の指示があってから納めます。
■申立てに必要な書類
・申立書(家庭裁判所のHPからダウンロードできます。)
・被相続人の相続関係すべてを証明する戸籍謄本
・被相続人の住民票除票又は戸籍の附票
・相続財産に関する資料(不動産登記事項証明書や預金通帳の写しなど)
・利害関係を証する資料(戸籍謄本や金銭消費貸借契約書など)
・財産管理人の候補者がいる場合はその方の住民票又は戸籍附票
※戸籍謄本や住民票等は申立て時点で発行後3か月以内のもの
※事情によってはこのほかの書類が必要になることもあります。
申立書及び記入例は下記の裁判所ホームページからダウンロードできます。
相続財産管理人選任申立て手続きの注意点
相続財産管理人選任の申立てを行うにあたっては以下の点に注意してください。
■他に相続人がいる場合は申立てできない。
相続財産管理人選任の申立てができるのは、「相続人のあることが明らかでないとき」(民法第951条)と定められています。
自分が相続放棄をした場合でも、まだ相続放棄をしていない別の相続人がいる場合は、そもそもその方が管理すべきなので、例え近隣住民からの苦情や行政からの指導があっても申立てを行うことはできません。
■申立ての際に高額の予納金が必要になることが多い。
相続財産の状況にもよりますが、相続財産管理人専任の申立ての際には、数十万円~100万円程度の予納金が必要になることがほとんどです。
この予納金は、相続財産を処分するための費用や、財産管理人の報酬に充てられます。
相続財産管理人にはほとんどの場合司法書士や弁護士などの専門家が選任され、報酬として毎月1~5万円程度が必要になります。
財産管理が終了した際に余りがあれば、予納金は返還されますが、余りが無ければ返ってきません。
管理義務から免れるために申立てをするようなケースでは、不動産を売却してもほとんど値段が付かず、逆に処分のために費用の方が高くなることがほとんどでしょうから、基本的には戻ってこないものと考えた方がいいでしょう。
場合によっては放棄せずに相続してから処分した方が安く済む可能性もあります。
あえて高額の費用を支払ってまで、申立てするメリットがあるかについては、親族とも相談の上、しっかりと検討した方がいいでしょう。
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相続放棄後の管理義務については改正が検討されている
実は相続放棄した方の管理義務については現在、改正が検討されています。
改正案では、相続放棄した場合の管理義務を「相続財産を現に占有しているとき」に限定することが検討されています。
改正がなされれば、相続開始時点で一切管理・占有したこともない不動産については、そもそも管理義務を負わないという事になります。
また、現行の法律の改正と併せて、相続放棄した人が管理義務を免れるための方策として、次順位相続人への催告制度や、相続財産の供託制度などを新たに創立することが検討されています。
しかし、現時点(2021年時点)では法改正されているわけではないので、現在の法律や制度に基づいて対応していくしかありません。
相続放棄後の財産管理義務についてくわしくはこちらの記事をご覧ください。
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相続放棄は慎重に!迷ったら専門家に相談を!
本記事では、相続人全員が相続放棄した場合の財産の行方や相続人の義務について解説しました。
相続放棄は先順位の方が放棄した後に、次順位の方がさらに相続放棄をして…というように連鎖することが多く、最終的に誰も相続人がいなくなることは珍しくありません。
先順位の方が相続放棄を知った後3か月以内に相続放棄の申述をしなければ、全ての財産を相続することになってしまうので注意しましょう。
また、先順位の方が相続放棄をした後に相続放棄をする場合、相続放棄の経緯について裁判所に説明しなくてはいけません。
相続放棄は、一度却下されてしまうと再度の申立てはできないので、相続に強い司法書士などの専門家に相談の上、手続きを行うことをおすすめします。
なお、相続人全員が相続放棄をした後で、管理義務から逃れるために相続財産管理人選任の申立てを行う場合、かなり専門的な知識が必要となるため、相続に強い司法書士や弁護士に手続きを依頼した方がいいでしょう。
相続放棄や相続財産管理人選任の申立てについてのご相談は当事務所で承ります。ご依頼をご検討中の方のご相談は無料です。
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