相続登記をしないままでいるとどうなる?ー登記しないことによるデメリットー

不動産を相続したら相続登記を

不動産を相続することになったら、相続人への名義変更(相続登記)が必要になります。

不動産は、登記簿に自分が権利者であることを記載する方法によってしか、第三者に自分が所有者であることを主張できません。

登記は自分の権利を守るための大切な制度ですので、相続することが決まった方はすみやかに登記を済ませましょう。

登記をしないデメリットとはどのようなものでしょう

登記は必ずしなくてはいけない?

・・・とは言っても実際のところ誰かが住んだり使用している限り、見知らぬ他人から『この不動産は俺のものだ』などと主張されることはまず無いでしょう。

2024年に相続登記義務化を含む新法が施行されるまでは、不動産登記に期限はなく、会社等の登記と違って義務もありませんでした。(少なくとも権利の登記に関しては)

となれば、『登記しなくても大丈夫なんじゃない?手続きは面倒臭そうだし、お金もかかるし・・・』と考える方もいます。

実際そのような相談を受けたこともあります。

ですが、専門家の立場からは『登記、特に相続登記は必ずやっておきましょう』と強く申し上げておきます。

単に義務化によって罰金(過料)を取られるようになるから、というだけではありません。

もちろん私たち(司法書士)の食い扶持が無くなるからという低次元な話でもありません。(登記は自分で申請することも可能です)

登記をしないことによるデメリットは皆様の想像以上に大きく、特に相続登記は『そのうちやればいいかと放置していたが、後になって大変なトラブルになってしまった』という事例が後を絶たないのです。

そこで今回は、相続登記をしないことによるデメリットについて解説します。これを読めば登記をしないことによるリスクがどんなに大きなものかわかると思います。

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目次

登記をしないことによるデメリット

では、登記をしないことによる一般的なデメリットとはどのようなものがあるのでしょうか。以下で解説します。

1

第三者に権利を主張できない

例えば、あなたが不動産を購入して、そのまま所有者変更の登記をしなかったとします。

そこで売主は、未だ登記簿上の所有者が自分であるのをいいことに、あなたに売った不動産を別の人にも売ってしまい、しかも後から買った人は所有者変更の登記まで済ませてしまいました。

当然あなたとしては『いや、その不動産は私が先に買ったから私のものだ』と主張するでしょう。

しかし後の買主が先にあった売買(あなたと売主との売買)の事実を知らなかったのであれば、登記名義が自分にない以上、後の買主に対しては自分が正当な権利者であると法的に主張(対抗)できないのです。

※売主に対しては当然主張できます。代金の返還を求めることもできます。

このような事態にならないように、不動産の売買では代金決済と同時に登記申請も行うのが通常です。

以上のようなことは相続ではあまり関係のない話かもしれませんが、例えば相続人の一人が遺産分割協議書を偽造した場合はどうでしょう。(当然犯罪ですが・・・)

遺産分割協議書を偽造した相続人が、自分名義の登記をしたあげく、そのことを知らない誰かに不動産を売却してしまえば、自分の法定相続分以上の権利を主張することはできなくなってしまいます。

2

不動産を売却できない

一般的に関係すると思われる中で、これが最も大きなデメリットです。

前述の通り、登記をしないと第三者に権利を主張できないため、不動産の売買では代金決済と共に所有権移転の登記も申請するのが通常です。

所有権移転登記は、登記簿上の所有者(登記義務者)と新たに所有者となる人(登記権利者)との共同申請で行います。

ところが、売主と所有者の名義が一致していなければ、代金決済と同時に果たすべき登記義務を果たすことはできません。

何より、登記簿上の所有者でない人が不動産を売ろうとしているなんていかにも怪しいと思いませんか?

本当に自分のものになるかわからない状態で、不動産を買う人はいないので、自分名義の登記をしない限り、不動産を売ること(売買契約を締結すること)はできないということになります。

3

不動産を担保にした融資を受けることができない

何らかの事情でお金が必要になった時に、不動産を担保にして金融機関から借りるということがあります。

この際、貸付(金銭の交付)と共に抵当権の設定登記を申請することになります。

抵当権が設定してあれば、将来的に返済が滞り、不動産を競売して債権を回収しようとするときに、競売のために必要な差し押さえが簡単になります。

また抵当権の登記権利者は、他の一般債権者に優先して配当を受けることができます。

このため抵当権の設定登記をせずに、金融機関が不動産を担保とした融資を行うことはまずありえません。

抵当権の設定登記は、抵当権者(融資する金融機関)と登記簿上の所有権者との共同申請で行います。

ということは自分名義の登記がなければ、不動産を担保にしてお金を借りることはできないということになります。

4

賃貸不動産の賃料を受け取れない可能性がある

例えば、すでに賃貸中のアパートの所有権をあなたが取得した場合です。

アパートの賃貸借契約は従前のまま引き継がれるのが基本ですが、新たな大家(賃貸人)としてアパートの住人(賃借人)に家賃を請求するには所有権移転登記をしておく必要があります。

新たな大家であるあなたから賃料の支払先変更の通知が来たとしても、本当に所有権が移転したかどうかは住人にはわかりません。

所有権移転が実際にはなかった場合、住人には二重支払いのリスクがあります。

そこでこのような場合は、アパートの住人は登記簿上の所有者に対して賃料を支払えば免責されるのです。

相続の場合は、自分の法定相続分に応じた賃料については、未登記かつ遺産分割協議未了であっても請求できるとされていますが、現実的ではないでしょう。

過料(罰金)を支払う必要はある?

長い間、登記をしないことによる過料(行政上の罰金)や罰則等は特にありませんでした。

特に期限も定められていなかったため、20年前の相続登記を今になって申請しても延滞金や加算金などは発生しませんでした。

しかし2024年以降、相続登記は義務化され、不動産を取得してから3年以内に相続登記をしなければ10万円以下の過料が科されることになりました。

また、相続登記の義務化と併せて、登記名義人の住所や氏名の変更登記も義務化されることになりました。(こちらは変更の日から2年以内に登記しなければ5万円以下の過料の対象)

一方、相続登記と住所等の変更登記以外の登記(売買や贈与による所有権移転登記など)については、2024年以降も義務ではなく、過料は科されません。

しかし一つだけ例外があります。以下の未登記不動産の場合です。

未登記不動産の場合

未登記の不動産というのがたまにあります。

未登記といっても

1.表示の登記(表題登記)はされているが、権利の登記(所有権保存登記)がされていない不動産

2.表題登記すらされていない完全に未登記の不動産

の2種類がありますが、1については所有権保存登記は義務ではないのでやはり罰則はありません。

しかし2の場合、所有権を取得してから(又は表題部の記載事項に変更があってから)1か月以内に表題登記を申請しなければ10万円以下の過料に処す、と不動産登記法に定められています。

もっとも、実際には表題登記をしなかったために過料に処されたという例は聞いたことがなく、表題登記すらない未登記建物というのは全国にたくさん存在します。(未登記の土地もごく稀に存在します)

ただし、未登記だからといって固定資産税が課税されないわけではありません。

登記の有無にかかわらず、課税の対象になりそうな建物については税務署が独自に調査してきっちり課税されます。

法律で定められている以上、今後過料の徴収が行われる可能性は否定できないので、専門家の立場としては、表題登記含めてしっかり登記しておくべき、と申し上げておきます。(すぐに取り壊す予定であればさすがに不要かもしれませんが・・・)

ここまでのまとめ

  • 登記をしないと第三者に権利を主張できない。
  • 登記をしないと不動産を売却できない。
  • 登記をしないと不動産を担保とする融資を受けることができない。
  • 賃貸物件について登記をしないと賃料をもらい損ねる可能性がある。
  • 2024年以降、相続登記と住所等の変更登記は義務化され、期間内に登記をしなければ過料の対象となる。

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2024年施行予定「相続登記義務化」を含む法改正の内容

先述のとおり、民法・不動産登記法の改正によって、2024年以降、相続登記は罰則付きで義務化されます。

今回の法改正の主な内容は以下のとおりです。

・相続・遺贈による不動産取得を知った日から3年以内に登記・名義変更をしないと、10万円以下の過料の対象になる。

・住所や氏名の変更をした場合、変更の日から2年以内に登記をしないと、5万円以下の過料の対象になる。

法改正以前に相続や住所等の変更が発生している不動産については、施行日から3年(住所等の変更は2年)以内に登記をしないと過料の対象になる。(施行日より後に不動産取得を知った場合は、知った日から3年以内)

・法務局が住基ネットで登記簿上の所有者の死亡情報を把握した場合は、職権で死亡したことを記録できる。(ただし死亡情報が記録されても、相続登記の義務は免れない。)

・3年以内に遺産分割がまとまらず、相続登記ができない場合、新設される「相続人申告登記」(相続人として申告のあった者の住所氏名等が職権で記録される制度)を行えば、義務は免れる。

・相続人申告登記や法定相続分による登記後に遺産分割協議がまとまった場合、協議成立の日から3年以内に登記・名義変更をしないと、10万円以下の過料の対象になる。

遺産分割協議がまとまらない場合は、新設される「相続人申告登記」を利用すれば、とりあえず過料は免れますが、その後協議がまとまった際には、3年以内に遺産分割による所有権移転登記を申請しなければならないので、2度手間です。

余計な手間をかけないためにも、今後は「相続が発生したら遅くとも3年以内に遺産分割協議をして、相続登記を行う」と考えておきましょう。

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過料以外の相続登記をしないことによるデメリット

上記のとおり、2024年からの相続登記義務化によって10万円以下の過料が科されることになったため、相続登記をしないことによる直接的なデメリットが明確になりました。

では、過料さえ気にならなければ、相続登記をしなくても問題ないのでしょうか?

もちろんそんなことはありません。

確かにここまでの登記全般についての、しないことによるデメリットはあまり関係ない方も多いかもしれません。

しかし実は相続登記をしない場合には、より多くの方に関係する、もっと大きな問題に発展する可能性が高いのです。

以下で実際に起こった・起こりうる事例をもとに解説します。

本来の相続分と異なる割合で勝手に登記されてしまう恐れがある

1

他の相続人が勝手に単独名義の登記をしてしまい、他人に売却してしまった

上記登記しないことによるデメリットでも少し取り上げましたが、他の相続人が遺産分割協議書を偽造して第三者に不動産を売却してしまった場合、自分の法定相続分を超える部分については、事情を知らない買主に対して権利を主張することはできません。

自分の法定相続分についても、いったん第三者に登記が移転されてしまえば、取り戻すには大変な労力と費用が必要になります。

また、完全に偽造であれば当然犯罪(有印私文書偽造罪等)ですが、他の相続人が作成した遺産分割協議書について、内容もよく確認せずに署名押印して印鑑証明書も渡してしまったという場合、罪に問うのも難しく、取り戻すのもより困難になるでしょう。

2

他の相続人が勝手に法定相続分での登記をしてしまい、持分を他人に売却してしまった

上記1は実行する相続人にとってもリスクが大きいため、それほど多いケースではないかもしれませんが、こちらはもう少し発生の可能性が高いものです。

遺産分割協議が終わらない間でも、あるいは終わっていても協議に従った登記を申請する前までは、法定相続人のうちの一人から、法定相続分による登記を申請することができます。この場合は他の相続人の協力などは不要です。

このことを利用して、相続人の一人が勝手に法定相続分での登記を済ませ、さらに自分の相続した持ち分を売却してしまったらどうなるでしょうか。

この場合、たとえ遺産分割協議によって特定の誰かが取得することになっていたとしても、事情を知らない買主に対してそのことを主張することはできません。

持分のみの売却など現実的ではないと思われるかもしれませんが、世の中には持分の買取を積極的に取り扱う不動産会社なども存在しています。

そういった会社は持分を買い取った後に、他の共有者(相続人)に対して、持分の買い取りや持分相当の使用料の支払いについて交渉してくるわけです。(全く違法ではありません)

交渉が決裂すれば共有物分割請求訴訟を起こされて、最悪の場合不動産を手放さざるを得なくなるかもしれません。

3

他の相続人の借金の債権者が、勝手に法定相続分での登記をしてしまった

こちらは相続人に悪気はないだけに?、より悪いケースかもしれません。

相続人のうちの一人に借金があり、返済が滞った場合、債権者としては債務者名義の財産があればそれを差し押さえようと考えます。債務者が相続する財産も差し押さえの対象です。

しかし被相続人名義の不動産はそのままでは差し押さえることはできず、債務者である相続人含む相続人への名義変更が必要になります。

実はこの場合には、債権者が自分の正当な権利を守る(行使する)ために、債務者である相続人に代わって法定相続分での登記を申請することができるのです。(債権者代位といいます)

名義変更後、債権者は債務者である相続人の持ち分を差し押さえることになります。

この場合も、たとえ遺産分割協議によって債務者以外の特定の誰かが取得することになっていたとしても、事情を知らない債権者に対してそのことを主張することはできません。

不動産が赤の他人との共有になることを避けるためには、債権者に相当の支払いをして差し押さえを取り下げてもらうか、競売で相続人が買い受けるしかありません。

相続人のうちの誰かに多額の借金があることが発覚した場合は、不動産のみの遺産分割協議を成立させ、すぐに登記をするなどの対策が必要かもしれません。

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相続開始時との状況の変化により、遺産分割協議を行うことが困難になる

1

認知症等による影響

相続人が複数いる場合、不動産については遺産分割協議によって特定の相続人の単独所有とすることが多いです。

遺産分割協議はいつまでにしなければいけないという決まりはないものの、相続人全員の参加が必要です。そこで相続人の中に認知症の方がいる場合は問題が生じることがあります。

相続人の中に認知症等で意思能力がない方がいる場合には、その方の代わりに成年後見人という法定代理人が遺産分割協議に参加することになります。

成年後見人は家庭裁判所での手続きを経て正式に選任してもらう必要があるので、手間も費用も掛かります。

また選任の申し立てから選任の審判まで少なくとも2カ月程度の期間がかかることが通常です。

そしてこの場合、本人の権利保護の観点から、被後見人(意思能力がない方)の取得する割合が法定相続分を下回るような割合での遺産分割は原則としてできません。

不動産を他の相続人が取得するなら、相当の代償金を支払うなどして、被後見人の方の相続分を確保する必要があるということです。

さらに、成年後見人が相続人である場合は、遺産分割協議を行うことについて被後見人との間で形式上利害が対立するので、特別代理人の選任が必要になります。(後見監督人がいる場合を除く)

特別代理人の選任にも家庭裁判所での手続きが必要なため、さらに手間や費用がかかることになります。

認知症=意思能力がないというわけではないので、必ず成年後見人の選任が必要なわけではないですが、遺産分割協議をしないでいるうちに認知症が進行してしまう事例は少なくありません。

特に配偶者の方は高齢であることが多いので、相続開始後すぐに協議を行っていれば手間も費用も少なくて済んだのに・・・と後悔することのないように早めに協議を行って登記まで済ませておくべきです。

相続人の中に認知症の方がいるときの手続きについての具体的事例はこちら

2

行方不明者がいる場合

相続人が行方不明になってしまった場合はよりやっかいです。

この場合も行方不明の方を除いて遺産分割協議をすることはできないので、家庭裁判所に不在者財産管理人を選任してもらうことになります。

選任には手間も費用もかかる上に、選任された管理人が遺産分割協議を行うには、家庭裁判所から権限外行為の許可を得る必要があります。

権限外行為許可の申し立ての際には、家庭裁判所に遺産分割協議案を提出する必要があるのですが、当然ながら不在者の取得する財産が法定相続分を下回るような割合の分割であれば許可はおりません。

さすがに行方不明になるかどうかまでは予測できないでしょうから、どんな場合であっても早めに協議を行って登記まで済ませておくべきと言えます。

なお、行方不明になってから7年以上経過している場合は失踪宣告をもって、行方不明者を死亡したものとみなして遺産分割協議を行うこともできるので、長期間行方が分からない場合はこちらの方法によることを検討すべきでしょう。

相続人の中に行方不明者がいるときの手続きについての具体的事例はこちら

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他の相続人の気が変わってしまい、登記できないことがある

1

相続放棄したはずが・・・

相続人間の話し合いによって、唯一の財産である不動産は故人の面倒を見てきた相続人が取得して、他の相続人は相続分を放棄することで納得したとします。

その時に合意内容に基づいて遺産分割協議書を作成していればいいのですが、話し合いが円満に終わった場合や、暗黙の了解による合意があった場合は、わざわざ書面にすることもないと考える方がいます。

しかし、法定相続分と異なる割合での相続登記の際には、遺産分割協議書が必要になります。

そこで改めて協議書を作成しようとした時に問題が生じる可能性があります。

相続開始後すぐであれば快く協力してくれた相続人も、時が経ち経済状況の変化等があれば、やはり貰えるものは貰いたいと言い出すかもしれません。

相続放棄すると言ったのに・・・と思われるでしょうが、正式な相続放棄の手続きを取っていない限り、相続人間での相続放棄の合意は遺産分割協議の一種にすぎません。

どうしても協力してくれなければ遺産分割調停等によるしかないでしょう。

2

遺産分割協議書の判子や印鑑証明書をもらえない

相続人全員の合意に基づいて作成された遺産分割協議書は、何年たっても有効です。

ただし遺産分割協議書があっても、相続人全員の実印が押印されていなければそのままでは登記申請には使えません。

また、申請の際には相続人全員の印鑑証明書も必要になります。印鑑証明書は本人以外は取得できません。

協議書作成時には快く了承してくれた他の相続人も、時が経ち事情が変われば、はんこ代等を要求してくるかもしれません。

協議がまとまったらすみやかに登記申請すべきですが、何らかの事情ですぐに登記申請できない場合でも、実印の押印と印鑑証明書はもらっておきましょう。

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二次相続が発生した場合に、手続きにかかる費用や手間が大きくなる

1

膨大な戸籍が必要に!

これが相続登記をしないデメリットの例としては、最も起こりうる事例です。

たとえば、当初の相続人が配偶者と子供2人だった場合、その時すぐに登記を済ませておけば、必要な戸籍の量はそれほど多くなく、費用もそれほどかかりません。

自分たちで登記を申請することもその時点では不可能ではなかったでしょう。

しかし相続登記をしないまま、相続人のうちの誰かが亡くなれば、その方の出生から死亡までの戸籍と、相続人の戸籍も必要になります。

さらにもう一人亡くなればその方の相続人の戸籍・・・と時が経つにつれ必要な戸籍の量は雪だるま式に膨れ上がっていきます。(30人以上の戸籍が必要になったケースもあります)

そうなればとても自分たちの手には負えず、司法書士等の専門家に依頼することになりますが、必要な戸籍の量が増えるほど、専門家に払う報酬や取得にかかる実費は高くなってしまいます。

自分たちのためだけではなく、後の世代のためにも、相続登記はすみやかに済ませておきましょう。

二次相続が発生したために膨大な量の戸籍が必要になってしまった具体的事例はこちら

2

どうしても取得できない書類が出てくる

上記の事例にも関係するのですが、数十年前の相続について登記を申請する場合、必要な戸籍等が、保存期間の経過や災害による消失等で取得できないことがあります。

もちろんその場合でも登記する方法はあるのですが、余計な手間がかかります。

現在では戸籍等の保存期間も長くなり(50年→80年と伸長されて現在は除籍となってから150年間保存される)、コンピューターにより管理されているので、今後は減少していく事例だとは思いますが、古い相続について登記していない場合は、保存期間が過ぎないうちに早めに済ませておきましょう。

相続登記を長期間放置してしまい、手続きに困ってしまった具体的事例はこちら

3

遺産分割協議書に判子をもらうのが大変

登記しない間に次の相続が発生した場合、遺産分割協議書に署名押印してもらう相続人の数が多くなって、連絡を取る手間が増えて大変ということもあるのですが、それ以上に懸念すべきことがあります。

相続人の数が増えれば、当然それぞれの関係性は薄れるため、遺産分割についての合意を得るのが難しくなるのです。

いとこの子供ぐらいになるとほとんど面識がないという方も多いのではないのでしょうか。

当初は家族だけの暗黙の了解ですんなりまとまっていた話も、あまり面識のない他人との間では簡単にはまとまりません。

もともと折り合いの悪い親族が相続人になった場合はなおさらです(自分の兄弟姉妹とは仲が良くてもその配偶者とは仲が悪いというのはよくある話です)。

たとえ先祖代々自分の直系が住んできた土地でも、相続人のうちの一人でも遺産分割協議書に署名押印をもらえなければ、単独名義で登記することはできません。

人によっては遺産分割協議書に署名押印する代わりに、高額なはんこ代を要求されるかもしれません。

何より面識のない方や、折り合いの悪い方と遺産分割というデリケートな話をするのは大変な心労が伴うものです。

遺産をめぐる関係が複雑化して解決が不可能になる前に登記を済ませておきましょう。

登記しない間に関係者が増えてしまい、協力を得るのが大変になってしまった具体的事例はこちら

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損害賠償金や災害保険金をすみやかに受けとれない可能性がある

記憶に新しいところでは、平成23年の東日本大震災の際の、原発事故による被害を受けた資産についての東京電力による損害賠償問題です。

当初、相続登記していない不動産や未登記の不動産についての対応が決まっておらず、賠償がなかなか受けられないということがありました。

結局登記未了であっても賠償は受けられることになりましたが、事故発生から最終的な決定まで2年以上もかかっています。

くわしくはこちら

東京電力による財物賠償請求に関連する登記相談のご案内|福島地方法務局

また、より身近な問題としては、相続した不動産について被相続人名義で火災保険・地震保険に加入していた場合です。

契約をそのまま引き継いだ後に保険が適用される火災等があった場合、登記簿上の名義人が被相続人のままでは、保険金がスムースに支払われない可能性があります。

またその不動産に特定の相続人が住み続け、保険料の支払いを行っていたとしても、名義人の変更を行っていなければ、法定相続人全員に対して分割して支払われる可能性があります。(実際の対応は保険会社によって異なります)

いずれのケースでも、登記未了を理由に保険金が全く支払われないということはないと思いますが、事故や災害に見舞われた際は一刻も早く賠償金や保険金を受け取りたいでしょうから、相続人への名義変更はしておいた方がいいでしょう。

空き家問題や公共事業への影響など社会的に迷惑がかかる

1

倒壊の危険性のある家屋を取り壊せない

不動産を相続しても誰も利用しなければ、建物は老朽化してそのうち倒壊の危険も出てきます。

しかし近隣の住人から対応を求められたとしても、行政側も他人の所有物を勝手に取り壊すわけにはいきません。

まずは所有者に対応を求めて、再三の指導等にもかかわらず対応されなければ、行政代執行により取り壊し等の処置がされるという流れになります。

平成27年に施行された空き家対策特別措置法や、各自治体の条例等により、以前より行政対応はしやすくなりましたが、基本は上記の流れです。

この時対象の不動産がすでに亡くなった人の名義であれば、相続人に対して指導・勧告等を行うことになりますが、長期間登記がされていなければ、相続人が誰であるか特定するのも困難です。撤去が行われるまでに余計な手間と費用がかかることになります。

空き家問題は今や大きな社会問題となっています。撤去にかかる費用は相続人が負担すべきものです。

利用も管理も費用負担もしたくないのであれば、相続開始を知った後、すみやかに相続放棄しましょう。(相続放棄しても管理義務については残る可能性はあります)

相続放棄と空き家問題についてくわしくはこちらの記事をご覧ください。

2

公共事業のための用地買収が進まない

あなたにとっては利用価値のない土地であったとしても、公にとってもそうであるとは限りません。

例えば地域の再開発や防災の設備設置、あるいは電気ガス水道や鉄道などのインフラの整備など、公共事業やそれに近い事業で相続した土地が必要になるかもしれません。

その場合、基本的には国や地方自治体などの事業者と所有者との間で事業用地の売買契約を結ぶことになりますが、所有者が亡くなった人のままであれば、まずは相続人の確定作業から始めなくてはなりません。

相続人が確定できたとしても、所有者が確定していなければ、売買契約は相続人の全員と締結せざるを得ないので、通常に比べかなり手間がかかる上に、相続人間での意見の統一も難航することが予想されます。

用地買収が進展せず、公共事業が遅れれば、余計な予算が必要になるでしょう。

予算の出どころはもちろん税金です。防災設備の設置が遅れれば人命にかかわるかもしれません。

大げさなようですが、あなたの世代で起こらなくても子や孫の世代では起こることかもしれません。

自分のためだけではなく、未来の子孫や公共の利益のためにも今のうちに登記を済ませておいて、所有者が誰であるかきちんと公示しておきましょう。

ここまでのまとめ

  • 相続登記をしないと正しい相続分と異なる割合で勝手に登記され、最悪の場合不動産を失う恐れもある。
  • 相続登記をしないでいるうちに相続人の誰かが認知症や行方不明になってしまえば、遺産分割協議を行うことが困難になる。
  • 遺産分割について話がまとまっていたにもかかわらず相続登記をしないと、他の相続人の気が変わってしまい登記できなくなる恐れがある。
  • 相続登記をしないでいるうちに次の相続が発生してしまうと、戸籍等の必要書類の収集が大変になる。また、関係の薄い相続人と遺産分割について話し合わなくてはならなくなる。
  • 相続登記をしないと不動産についての損害賠償金や災害保険金を速やかに受け取れない可能性がある。
  • 相続登記をしないと社会的に迷惑をかけてしまう可能性がある。

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相続登記をしないメリットとは

ここまで、相続登記をしないことによって想定されるデメリットについて解説してきましたが、逆に登記をしないことによって得られるメリットとはどのようなものでしょうか?

いろいろと考えてみましたが、次のものしか思い当たりません。

登記のための費用(特に登録免許税)を節約できる

確かに登記には費用がかかります。

自分で申請すれば司法書士に払う報酬は不要ですが、それでも申請時には登録免許税という税金が必要です。

不動産の評価額が高額であれば、この登録免許税も結構な金額になります。必要な戸籍の量が多ければ郵便料金や発行手数料もばかにならないかもしれません。

登記をしなければこれらは払わなくて済みます。

しかし逆に言えばメリットはそれだけです。固定資産税は、登記の有無にかかわらず税務署が勝手に調べて課税してきます。

手続きが面倒であれば、司法書士に依頼すればすべてやってくれます。

相続人間の協議や調整が難航しているとしても、いつかは決着をつけなくてはなりません。先延ばしにしても解決は余計遠のくだけです。

さらに言えば費用についても、すぐに申請した方が、将来必要に迫られてやる場合に比べて安くなる可能性が高いです。

時が経てば、必要な戸籍の量も増えているかもしれません。専門家でも手を焼く状態になっているかもしれません。

あなたがやらなかったとしてもそのツケはあなたの親族や子孫が払うことになります。

2024年以降は相続登記をしない事により罰金(過料)が科されることになり、経済的にも直接のデメリットが生じるため、もはや「登記をしないことによるメリットは何も無い」と言っていいでしょう。

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最後に

ここまで登記、特に相続登記をしないデメリットについて解説してきましたが、事情によっては『今は』相続登記すべきではない場合というのもあります。

ただし恒久的に登記しなくてもいいケースというのはありえません。

本当に登記費用も払えない場合は別ですが、基本的には誰が相続するか確定したらすみやかに登記を済ませましょう。

費用をできるだけ安く抑えたいという方は、自分で登記してみるのもいいでしょう。馴染みのない手続きに苦労するかもしれませんが、それも良い経験かも知れません。

自分で登記しようと考えている方はこちらの記事を参考になさってください

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司法書士への相談を考えている方はこちらの記事も参考になさってください。

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この記事の執筆者

司法書士法人東京横浜事務所
代表 田中 暢夫(たなか のぶお)

紹介年間100件以上の相続のご相談・ご依頼に対応している相続専門の司法書士。ミュージシャンを目指して上京したのに、何故か司法書士になっていた。
誰にでも起こりうる“相続”でお悩みの方の力になりたいと、日々記事を書いたり、ご相談を受けたりしています。
九州男児で日本酒が好きですが、あまり強くはないです。
保有資格東京司法書士会 登録番号 第6998号
簡裁訴訟代理認定司法書士 認定番号 第1401130号

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相続手続き丸ごとサポート

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不動産、預貯金、その他あらゆる相続手続きをまるごとおまかせしたい方におすすめのプランです。

相続放棄サポート

44,000円~

借金・財産の相続放棄についてお客様のご要望に応じた3つのプランをご用意しております。

遺言・生前対策サポート

33,000円~

遺言内容や生前対策に関するアドバイスや実際の遺言作成の手続きや生前対策に関するサポートを実施します。

おひとり様・おふたり様サポート

330,000円~

自分の死後に、葬儀・埋葬、各種の届出や解約などの手続きを頼める人がいない、残された人の手を煩わせたくないという方におすすめのプランです。

認知症対策サポート

330,000円~

将来認知症になった時に備えてあらかじめ対策しておきたいという方におすすめのプランです。

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