共有名義(法定相続分)の登記をしてもいいケースとすべきでないケース
法定相続分での共有名義登記
故人の遺産は、法律で定められた相続人にそれぞれの相続分に応じた割合で受け継がれるのが原則です。相続人が複数であれば共有状態で受け継がれます。
もっとも法律で決められたそれぞれの取り分(法定相続分)はあくまで原則であり、遺言や遺産分割協議によって法定相続分とは異なる財産分割をすることが可能です。
仲良く分けることは悪いことではないのですが…
特に不動産は共有状態にしてしまうと後々やっかいなことになるので、遺産分割協議によって相続人のうちの一人の単独所有にすることが多いです。
しかし理由は様々ですが、中には法定相続分通りの相続を希望され、共有での名義変更登記(相続登記)をされる方もいらっしゃいます。
そこで本記事では、共有名義の相続登記のメリットとデメリットを挙げ、共有名義登記をしても問題ないケースと、すべきでないケースについて解説します。
これを読めば、自分が共有名義の相続登記をしても問題ないかがわかります。
法定相続分って何?という方はこちらをご覧ください。
相続登記等の死後手続き・相続手続きに関する無料相談実施中!
相続登記をはじめとして、お客様にどのような手続きが必要なのかをご案内させていただくため、当事務所では無料相談を行っています。
当事務所では、身近な人が亡くなった後に必要な死後手続き・相続手続きに関して、数多くのご相談とご依頼を受けています。
このような豊富な相談経験を活かし、お客様に必要な手続きと最適なサポートを提案させていただきますので、お気軽にお問い合わせください。
お電話でのお問合せはこちら(通話料無料)
0120-546-069
法定相続分での共有名義登記をすることによるメリット
法定相続分通りに共有名義登記をするメリットとしては次のようなことが挙げられます。
1
相続人間での協議・調整の必要がない
法定相続分と異なる割合で相続する場合、遺言書がなければ相続人間で遺産分割協議を行う必要があります。
しかし誰がどの財産をどのような割合で取得するかについてはそれぞれの言い分があるでしょうから、話し合いがなかなか進まないこともあるでしょう。
法定相続分通りであれば、お互いに納得しやすく、代償金(いわゆるはんこ代のこと)を支払う必要もないので、少なくともその時点では、話し合いや調整にまつわる面倒さを回避することができます。
2
登記申請の際に必要な書類が少なくて済む
法定相続分と異なる割合での相続登記をする場合、申請の際に相続人全員の実印が押された遺産分割協議書と印鑑証明書が必要になります。(遺言書がある場合を除く)
相続人の数が多い場合や、遠方に住んでいる方がいる場合は、これらの書類をそろえるのにそれなりの手間がかかります。
法定相続分での登記であればこれらは不要のため、手続きにかかる手間の面では少し楽になります
法定相続分での共有名義登記をすることによるデメリット
反対に、法定相続分通りに共有名義登記をするデメリットとしては次のようなことが挙げられます。
なお、あえてする方は少ないとは思いますが、遺産分割協議によって共有名義にする場合もデメリットは基本的に同じです。
1
後になって揉め事になりやすい
これが最も懸念すべきデメリットです。
いくら相続人同士仲が良く、揉め事になるなど考えられなくても、人の気持ちは変わるものです。
また相続人が亡くなれば当然次の相続が発生しますが、相続人同士の仲が良くても、その家族とまでずっといい関係でいられるかはわかりません。
事情の変化で不動産を処分したくなっても、共有者の一人が反対すれば不動産全体の売却はできません。
逆に共有者が自分の持ち分を第三者に売却してしまえば、赤の他人と共有物についての話し合いをすることになります。
最悪の場合、共有物分割請求訴訟を提起されて不動産を手放さざるを得なくなるかもしれません。
そこまでいかなくても不動産の使用料を支払えと言われるかもしれません。
揉めるのが嫌だから、面倒だから、という理由で法定相続分通りに登記することは、結局問題を先送りにしているにすぎないのです。
2
後から共有関係を解消しようとすると費用が高くなる
共有者同士の仲に問題がなくても、結婚や出産や子供の独立などといった事情の変化により、共有関係を解消して単独所有にしたいと思うことはあり得ます。
しかし共有者の一人に持分を移転するための登記費用や、贈与した場合に課される贈与税は、相続の時と比べてはるかに高くなります。
また、土地であれば分筆するという方法もありますが、分筆のための費用も決して安いものではありません。
3
不動産を売却するときに手間がかかる
いったんは共有名義での登記をしたが、事情の変化により不動産を売却したい、ということもよくあります。
この場合共有者全員が売買契約の当事者になります。
売却すること自体には納得していても、最低売却価格や仲介業者の選定、売却活動を誰が中心となって行うか、などをめぐって意見の不一致が起こり、その調整に手間取る可能性があります。
また、ようやく契約がまとまっても、共有者のうちの一人が引っ越しをしていた場合や、権利書(登記済権利証・登記識別情報通知書)を紛失していた場合には、売却の際に余分な費用や手間がかかることになります。
これらは司法書士に登記を依頼した段階で発覚することが多く、費用負担などをめぐって揉めることも珍しくはありません。
法定相続分での相続登記をしても問題ないケース
●相続人が一人しかいない場合
上で挙げたようなデメリットは相続人が複数いる場合の話です。
相続人が一人しかいない場合は当然単独名義になるので何の問題もありません。
というより一人で遺産分割協議をしても仕方がないので、法定相続分による登記をするしかありません。
逆に相続したくなければ相続放棄するしかありません。
ただし不動産の持分を単独相続する場合、つまりすでに共有名義である場合は、これを機に他の共有者の方と、共有状態の解消について話しあった方がいいかもしれません。
ケース別:共有名義の相続登記の問題点と危険度
では、共有状態になるにも関わらず法定相続分通りの登記をしてもいいケース、絶対にすべきでないケースとはどのようなものでしょうか。
実際に起こりうる事例をもとに、将来的にトラブルになる可能性や、余計なお金を払わなくてはいけなくなる可能性について危険度の評価付きで解説します。
1
すぐに不動産を売却してその代金を分ける予定である
危険度:10%
めぼしい財産が不動産しかない場合、相続人の誰もその不動産を今後利用する予定がない場合などは、不動産を売却する前提で共有名義の相続登記をすることがあります。
すでに売買契約がまとまっている場合や、売却の方針に不一致がない場合はトラブルになる可能性は低いでしょう。(上記デメリット3番のような事例には気をつけるべきですが)
ただし、不動産の売却によって譲渡益が出そうな場合は、法定相続するより誰か一人が取得して他の相続人に代償金として支払う形にした方が、支払う税金の総額を低く抑えられる場合があります。
気になる方は相続不動産売却に詳しい専門家などに相談してみるのもいいでしょう。
2
相続人が配偶者と子供1人のみである
危険度:20%
相続人が配偶者と子供一人のみであれば、配偶者の死後は子供に相続され単独所有となるため、永続的なトラブルに発展する可能性は低いかもしれません。
実際、主に相続税節税の目的であえて共有や配偶者の単独相続にされる方もいらっしゃいます。(相続税については配偶者にかなりの優遇措置があります)
しかし配偶者の気が変われば、自分の持分を誰かに生前譲渡したり、遺贈したりする可能性もないわけではありません。
万が一に備えて遺言を書いてもらうなどの対策は必要かもしれません。
また、最初の相続で子供の単独所有とする場合に比べて、登記が2度必要になるためその分の費用はかかります。
節税のつもりがトータルで見ると高くなったということにならないように、相続手続き全般に詳しい専門家への相談をおすすめします。
3
亡くなった方の配偶者がその不動産に住み続ける予定である
危険度:40%
亡くなった方に子供が2人以上いるケースで多いです。
たとえば下記のような事例です。
・高齢の母親の面倒を見る代わりに、子供のうちの一人が実家不動産をすべて相続することで合意した。
・しかしその後約束を反故にして、母親を追い出して不動産を売却すると言い出した…
このような場合でも、いったん成立した遺産分割協議を解除してやり直すことは難しいのです。
そこでこのような場合に備えて、あえて単独名義にはせず母親を含めた全員の名義で登記をして、それぞれが権利を主張できる状態にしておくという考えです。
しかしこの方法によると、配偶者の死後は、他の相続人による紛争の可能性が高まります。
配偶者の生活を保障したいのであれば、いったん配偶者の単独名義にした上で、面倒を見る相続人にすべて相続させる旨の遺言書を書いてもらう、あるいは家族信託を利用する、などの対策の方がいいかもしれません。
4
相続人全員がその不動産に住み続ける予定であり、仲も良い
危険度:50%
家族全員が同居していて仲もとても良いので、法定相続分通り平等に分けたい。むしろ遺産分割の話し合いで仲が悪くなることを避けたい、という方もいらっしゃいます。
気持ちはよくわかるのですが、今後もずっと関係が変わらないとは限りません。
まずは配偶者が単独で相続する、あるいは誰かが相続する代わりに代償金を分割払いで支払うという形の方がいいかもしれません。
5
遺言書で指定されたから
危険度:60%
遺言書で法定相続分通りの分割を指定された、あるいは『仲良く平等に分けなさい』と書かれていたので、遺言に従って法定相続分で登記することにしたというケースです。
たしかに遺言は故人の最後の想いを伝える大切なものであり、できる限り尊重されるべきではあります。
しかし故人の本当の願いは、残された家族が争うことなく先々まで仲良く暮らすことなのではないでしょうか。
そうであれば後の紛争の予防のため、遺言と異なる内容の遺産分割協議をすることも、故人の遺志をないがしろにするものではないと思います。
実務上でも相続人全員の合意があれば、遺言と異なる内容の遺産分割は認められているので、相続人間での話し合いが可能であれば、より現状に即した分割を考えるべきです。
6
勝手に登記されることを防ぐためにとりあえず登記しておく
危険度:70%
相続人の一人が、遺産分割協議書を偽造するなどして勝手に単独名義の登記を行わないように、まずは法定相続分で登記しておいて、話し合いがまとまったら変更するつもりである、というケースです。
しかし、そこまで信頼関係がないのであれば、短期間の話し合いで解決するのはなかなか難しいのではないでしょうか。
いったん登記した後、長期間の話し合いの末に協議がまとまったので、不動産を取得する相続人に名義変更をした、という場合、高額の贈与税が課せられる可能性があります。
※必ず課せられるとは限りませんが、最初の相続登記から時間が経っているほど、実質的に贈与にあたるとして課税の可能性は高まります。
この場合は、話し合いが終わるまで登記はせずに、実印や印鑑カードなどの管理に気をつけるべきでしょう。
7
相続税の申告期限に間に合わないから
危険度:80%
相続税の申告期限は亡くなってから10か月以内です。
申告の必要があるにも関わらず期限内に申告しなければ、延滞税や加算税などのペナルティが課されます。
そこで遺産分割協議が終わらず、申告期限に間に合わなさそうな場合には、とりあえず法定相続分で相続したと仮定して相続税を納付しておき、後で修正申告や更正の請求をするという方法があります。
ここまでは問題ないのですが、相続登記にも期限があると思われて(あるいは税申告と登記申請は連動するものと考えられて)、法定相続分での(本人にしてみれば仮の)相続登記をされてしまう方がいらっしゃいます。
しかし相続登記は、相続開始後3年以内に済ませれば罰則はないので、遺産分割協議がまとまってから登記をすれば大丈夫です。
もし3年以内に遺産分割協議がまとまらない場合も、『相続人申告登記』(2024年以降開始される新制度)という相続登記とは別の登記を行っておけば大丈夫です。
※その後、遺産分割協議がまとまってから3年以内に正式な相続登記が必要。
このケースでは遺産分割協議後、正しい権利関係に変更するための登記申請にかかる費用は丸々無駄なものです。特に登録免許税がもったいないです。
ただし期限がないからといっていつまでも登記しないままでいると、後々非常に厄介なことになる可能性が高いので、協議がまとまったらすみやかに登記を済ませましょう。
8
めぼしい財産が不動産しかなく、相続人間での調整が面倒だから
危険度:90%
故人がのこした遺産は、実家不動産以外はわずかな預貯金があるのみ、というのはよくある話です。
この場合、相続人のうちの一人が単独で相続することに合意できなければ、不動産を売却してその代金を分ける(換価分割)、不動産を取得する代わりに自己資金から代償金を支払う(代償分割)、などの分割方法が考えられます。
しかしそういった方法は面倒で手間もかかるため、問題があることは認識しつつも、とりあえず先送りにして法定相続分での登記をされてしまう方もいます。
そのまま次の相続が発生するとより大変なことになるので、面倒でも今のうちに処理しておくべきでしょう。
9
相続人間で遺産の分け方について揉めていて収拾がつかない
危険度:100%
遺産をめぐってお互いに感情的になって収拾がつかないので、とりあえず登記して時間が解決してくれるのを待つ、というケースです。
揉めるのは仕方がないですが、解決をあきらめて登記してしまうと、よりやっかいなことになりかねません。
例えば相続人の一人が持分を第三者に売却してしまい、赤の他人から共有物分割請求される可能性があります。
最悪の場合、住んでいる不動産を手放すことになるかもしれません。
時間が解決してくれる保証はありません。
世代が変わって相続人が増えれば増えるほど関係は薄れ、より解決は難しくなります。
禍根は後の世代に残すことなく、自分たちの世代で解決しておくべきです。
番外編:債権者によって法定相続分での登記をされてしまうケース
相続人の一人に借金があり、これを延滞してしまっている。
このような場合に遺産分割協議が終了しないうちに、債権者が差し押さえの前提として法定相続分での相続登記をしてしまうことがあります。
本来登記申請は権利者本人(又は代理人)しか申請できませんが、この場合は債権者が自分の正当な権利を守る(行使する)ためにすることができるのです。(債権者代位といいます)
いったん登記されてしまうと、たとえその後に遺産分割協議で相続人の一人が相続することになっても、それを債権者に対抗(主張)することはできません。
これは自ら望んだケースではないのでどうしようもないですが、相続人の誰かに借金があるとわかっているなら、不動産だけを優先させて遺産分割協議を行い、登記を済ませてしまう、といった対策は取ることができます。
なお、亡くなった方に借金があった場合は、相続放棄しない限り、借金も法定相続分に従ってそれぞれの相続人に引き継がれるので、早く登記してもその後普通に差し押さえられます。
この場合は相続放棄するかどうかをしっかりと検討すべきでしょう。
相続放棄についてくわしくはこちら
だからといって登記しないままでいるのは危険
法定相続分は法律で決められた取り分ですので、その通り登記して共有状態にすることが悪いわけではありません。
しかし現実的には不動産を共有状態にすると、様々なリスクを抱えることになる、ということは理解しておくべきでしょう。
だからといって、登記せずにそのまま放置しておくというのも避けるべきです。
登記は自分の権利を第三者に主張するための大事な制度です。罰則はないと言っても、登記しないことによるリスクは、放置する期間が長くなれば長くなるほど高まります。
共有によるリスクを了承した上で、法定相続分による共有名義登記をお考えの方は、下記の法定相続分による相続登記手続きについての記事をご参考になさってください。
なお司法書士に依頼する場合は手続きの詳細は全く分からなくても大丈夫です。
また、できれば共有名義にはしたくないけど、当事者同士での協議が思うように進まない場合などは、専門家の力を借りてみることもお考え下さい。
相続登記や不動産の適切な承継方法についてのご相談は当事務所で承ります。ご依頼を検討中の方のご相談は無料です。
記事の内容や相続手続の方法、法的判断が必要な事項に関するご質問については、慎重な判断が必要なため、お問い合わせのお電話やメールではお答えできない場合がございます。専門家のサポートが必要な方は無料相談をご予約下さい。
お電話でのお問合せはこちら(通話料無料)
0120-546-069