遺産分割協議による相続登記(手続きの流れ・必要書類)

法定相続分と異なる相続登記

遺産である不動産を共有状態にすると後で様々なトラブルにつながる恐れがあります。

そこで相続人が複数の場合、ほとんどの方は遺産分割協議を行って、協議で決めた取得者に名義を変更する登記を行うことになります。

多くの方は遺産分割協議を行って相続登記をすることになります

この遺産分割協議による相続登記は、法定相続分や遺言による手続きと比べ、必要書類が多く、申請にあたって気をつけるべき点も多いです。

本記事では、遺産分割協議による相続登記手続きの流れや必要書類と共に、注意すべき点について解説します。

多くの方に関係する話なので、これから遺産分割協議を行う方も、すでに協議が終わって登記申請しようとしている方も、ぜひ参考にしてみてください。

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目次

遺産分割協議による相続登記手続きの概要

まず、遺産分割協議による相続登記手続きの概要について説明します。

なお、司法書士に登記を依頼しようと考えている方は、基本的にすべて代行してくれるためあまり気にする必要はありません。

手続きの流れ

遺産分割協議による相続登記手続きの大まかな流れは次の通りです。

なお、1~3は順番の前後は問いません。できれば同時に進めていくのが望ましいでしょう。

1.被相続人の戸籍等と住民票の除票(または戸籍の附票)を取得する。各相続人の戸籍等を取得する。

2.権利書(登記済権利証・登記識別情報通知書)や固定資産税納税通知書などから不動産の地番・家屋番号を特定して、近くの法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を取得する。

3.不動産を管轄する市町村役場(東京23区内は都税事務所)で不動産の固定資産評価証明書を取得する。

4.相続人全員で遺産分割協議を行い、誰が不動産を取得するか決まったら遺産分割協議書を作成し、相続人全員の印鑑証明書と不動産を取得する相続人の住民票(本籍が記載されているもの)を準備する。

5.登記申請書および相続関係説明図を作成する。必要であれば法定相続情報一覧図を作成する。

6.登録免許税を納付して、登記申請書と必要書類を不動産を管轄する法務局に提出する。

7.登記官による審査後、不備がなければ新たな権利者が登記簿に記載される。

8.登記完了後、登記識別情報(通知書)が交付されるので受領する。併せて原本還付された書類も受領して手続き完了。

■補足

  • 1について:被相続人の死亡や登記簿上の権利者との同一性、相続人であることの証明のために必要になります。
  • 2について:申請書に記載すべき不動産の表示や、現在の権利関係を把握するために必要になります。
  • 3について:登記の際に納付する登録免許税の額を計算するために必要になります。
  • 4について:印鑑証明書はいつ発行されたものでも構いません。住民票は登記簿に記載する住所の確認のために必要になります。申請する法務局によっては、本籍とのつながりを確認するために、不動産取得者以外の相続人の住民票の提出を求められることもあります。
  • 5について:相続関係説明図を提出すれば戸籍等の原本還付が受けられます。法定相続情報一覧図については下記参考リンク先をご参照ください。
  • 6について:収入印紙を申請書(貼付台紙)に貼り付けての納付が一般的ですが、金融機関で現金納付することもできます。申請は窓口または郵送で行います(一応オンラインでも申請可能ですが一般の方にはおすすめしません)。
  • 7について:不備があった場合は法務局から連絡が入るので、窓口に出向いて補正を行います。
  • 8について:郵送(本人限定受取郵便)での受領も可能です。登記申請書や登記申請のみを目的として作成された委任状は原本還付できません。

■参考

●オンラインによる登記情報提供サービス

登記情報提供サービス|一般財団法人民事法務協会

●法定相続情報一覧図(法定相続情報証明制度)について

「法定相続情報証明制度」について|法務局

●申請書の書式・ひな型など(20番が遺産分割協議による場合の書式です)

不動産登記の申請書様式について|法務局

手続きに必要な書類

遺産分割協議による相続登記手続きに必要な書類は以下の通りです。

なお司法書士に登記を依頼すれば、これらの書類は代わりに取得・作成してくれます。

  • 登記申請書
  • 被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍
  • 被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票)
  • 相続人全員の現在戸籍謄本(抄本)
  • 不動産を取得する相続人の住民票(申請する法務局によっては相続人全員の住民票)
  • 対象不動産の固定資産評価証明書
  • 対象不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)…添付する必要はないが不動産の特定のために必要
  • 相続関係説明図…必須ではないが、あれば戸籍等の原本還付が楽になる
  • 遺産分割協議書
  • 相続人全員の印鑑証明書(申請人のものは省略可能)

■亡くなった方に子供がいない場合(相続開始時にすでに死亡している場合含む)

亡くなった方に子供がいない場合は、上記に加えて次のような書類が必要になる可能性があります。必要な戸籍の種類や範囲は相続関係によって異なるので法務局や司法書士にご相談ください。

  • 被相続人の子供の戸籍(除籍、改製原戸籍)
  • 被相続人の直系尊属(父母や祖父母)の戸籍(除籍、改製原戸籍)
  • 被相続人の兄弟姉妹の戸籍(除籍、改製原戸籍)

■申請人の印鑑証明書について

遺産分割協議による相続登記を申請する際は、協議書に押された実印が真正なものであることを証明するために、相続人全員の印鑑証明書を添付するのが原則です。

ただし申請人については、印鑑証明書を添付しても自分自身の証明に過ぎないので省略することができる、との取り扱いが実務ではされています。

しかしあらゆる場合で不要とまでは言い切れないため、すでにほかの手続き等で印鑑証明書を取得されているなら付けておいた方が確実です。

それぞれの書類の詳細や取得先についてはこちらをご参照ください。

手続きに必要な戸籍の種類や収集方法についてはこちらをご覧ください。

申請書の提出先

不動産の所在地を管轄する法務局(登記所)

全国の法務局はこちらから検索できます。

管轄のご案内|法務局

手続きにかかる費用

■登録免許税

不動産の固定資産評価額(課税価格)の0.4%(100円未満切り捨て)

■実費

必要書類の交付手数料、郵便料金などで数千円~数万円程度

■司法書士に依頼した場合の報酬

登録免許税や実費を除いて7万円~10万円程度(税別)

※一般的な相続の場合です。不動産の評価額や相続関係によって異なります。

遺産分割協議書の作成も併せて依頼するケースが多いので、法定相続分で登記する場合と比べると報酬は少し高くなる傾向にあります。

申請してから登記が完了するまでの期間

1~2週間程度

期間は申請する法務局や時期、申請内容によって変わります。

各法務局の窓口に登記完了予定日が掲示されているほか、ホームページからも完了予定日が確認できます。(一部表示されていない法務局もあるかもしれません。)

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遺産分割協議による相続登記手続きの注意点

遺産分割協議に従って相続登記を行う場合、法定相続分や遺言に従って登記する場合と比べても、気をつけるべき点は多いです。以下で解説します。

登記をしないと第三者に権利を主張できない

もし遺産分割協議で不動産についてはあなたがすべて取得することになっても、登記をしなければ、法定相続分を超える部分については第三者に自分に所有権があることを法的に主張(対抗)できません。

もう少しイメージしやすく言うと、あなたが登記をしないでいるうちに、不動産を相続しない他の相続人が勝手に法定相続分での登記を行い、事情を知らない第三者に自分の持分を売却してしまったら、売却された持分を無条件で取り戻すことはできない、ということです。

そう頻繁に起こるケースではないでしょうが、もし売却されて共有状態になってしまうと、持分に応じた利用料の請求や共有物分割請求を受けるかもしれません。

最悪の場合不動産を失う可能性もあります。

どのようなケースでも相続登記は早めに済ませておくべきですが、特に遺産分割協議による場合は、協議がまとまり次第すみやかに登記を済ませておきましょう。

なお、自分の法定相続分については登記なくして第三者に権利を主張できます。

参考 (共同相続における権利の承継の対抗要件)

第八百九十九条の二 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

引用:民法|e-Gov法令検索 

遺産分割協議書の不動産についての記載が間違っていると登記できない

遺産分割協議書に記載された不動産の地番、家屋番号、地積などの記載が、登記簿の記載と一致していなければ補正や却下(取り下げ)となる可能性があります。

軽微な間違いであれば捨印対応してくれることもありますが、基本的には補正のためにわざわざ法務局まで出向かなくてはなりません。

※郵送申請の場合でも、補正内容によっては郵送対応できない場合があります。

古い契約書や登記済権利証と登記簿の記載は違っていることもあるので、遺産分割協議書を作成する際は、登記事項証明書を見ながら一言一句間違いのない様に記載しましょう。

遺産分割協議書の書き方や作成方法についてくわしくはこちらの記事をご覧ください。

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登記名義が先代のままでも1回で登記できる場合がある

こちらは知らないと損をするかもしれない話です。

父の名義だと思っていた実家不動産を、相続人である子供の名義に変更しようとしたところ、実は祖父の名義のままだったというのは珍しくない話です。

この場合、本来であれば祖父・祖母名義から父名義への相続登記と、父から子への相続登記という2回の登記が必要になります。

しかし、このように名義変更しない間に複数の相続が発生している場合(数次相続といいます)でも、中間の相続人(上記の例で言うと最初の相続人である父)が単独であれば、1回の申請で最終相続人(上記の例で言うと子)へ名義変更することが実務上認められています。(中間省略登記と言います)

この中間省略登記ができるのは中間の相続人が単独である場合のみですが、この『中間の相続人が単独』とは、法定相続人が一人しかいなかった場合だけでなく、遺産分割協議によって不動産を単独で取得することになった場合も含みます。

名義は先代のままでも、実質はすでにその相続人(及びその家族)のみが暮らしていて、固定資産税も負担しているというケースが実務では多いのですが、そのようなケースでは、登記費用節約のために中間省略登記ができないかを検討すべきです。

ただし、数次相続が発生している場合、それぞれの相続について別々に遺産分割協議を行う必要があります。

遺産分割協議書や申請書への記載方法も少々特殊であり、事情によっては中間省略登記ができないケースもあるため、司法書士へ相談されることをおすすめします。

換価分割の場合は遺産分割協議書の記載に要注意

換価分割とは、相続した不動産等の財産を売却して、その代金を各相続人で分ける遺産分割の方法です。

亡くなった方の名義のままでは売却できないので、いったん相続人への名義変更登記が必要になります。

この時売却後に取得する代金の割合通り(通常は法定相続分)に登記するのであれば、少なくとも相続税・贈与税の課税上はそれほど問題ありません。

しかし売却手続きの都合上、特定の相続人への単独名義変更後に売却する場合は、遺産分割協議書に換価分割である旨を明記しておかないと、名義変更した相続人から他の相続人に対して、(売却代金の)贈与があったとみなされ、贈与税を課されてしまう恐れがあるので注意が必要です。

単独名義の相続登記をして換価分割する場合は、遺産分割協議書に次のように記載します。

1.相続人世田谷一郎は、次の財産を取得する。

  不動産の表示 (省略)

2.相続人世田谷一郎は、前項の不動産をすみやかに売却換価するものとし、売却代金から売却に要する一切の費用を控除した残金を、共同相続人世田谷花子及び世田谷一郎の間で、2分の1の割合で分割し、それぞれが取得する

※売却換価のための便宜上の単独相続登記であることをはっきりさせるため、第1項に『売却換価のため』、『便宜上単独相続登記をする』等の文言を入れるべきとの考えもありますが、申請する法務局によってはそのような便宜上の単独登記は認められない可能性があります。

事前に法務局、税務署、司法書士等に相談することをおすすめします。

なお、売却の際に譲渡益が発生すると譲渡所得税が課税されますが、換価分割の場合は原則として各相続人に課税されることになります。

この際、各種控除の適用の可否によって税額が異なるため、相続人間で実質的な受取金額に不公平が生じる可能性があります。

この点についてもあらかじめ相続人間で調整しておいた方がいいでしょう。

場合によっては換価分割ではなく代償分割を選択した方がいい場合などもあります。

詳しくは相続不動産に強い専門家にご相談ください。

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代償分割の場合も遺産分割協議書の記載に注意が必要

代償分割とは、不動産など特定の財産を相続人の一人が取得する代わりに、他の相続人に対して代償金を支払う遺産分割の方法です。

代償分割の方法で遺産分割をする場合、遺産分割協議書にその旨が明記されていないと、代償金の支払いが単なる贈与とみなされ、贈与税を課税されてしまう恐れがあるので注意しましょう。

不動産を取得する代わりに代償金を支払うという内容の代償分割であれば、遺産分割協議書に次のように記載します。

1.相続人世田谷一郎は、次の財産を取得する。

  不動産の表示 (省略)

2.相続人世田谷一郎は、前項の不動産を取得する代償として、相続人世田谷花子に対し、金1,000万円を、本協議成立後すみやかに支払うものとする。

なお、相続した不動産を売却した際に譲渡益が発生すれば譲渡所得税が課税されますが、代償分割の場合は、当然ですが不動産を取得した相続人にのみ課税されることになります。

これを利用して、譲渡所得税の大幅な控除(マイホーム売却時の3000万円控除など)を受けることができる相続人に不動産を取得・売却させて、売却代金の中から他の相続人に代償金を支払うことにより、相続人間での実質的な受取金額の不公平を解消するという方法があります。

しかしこの場合でも、売却代金が想定より高かったり低かったりすればやはり不公平が生じる恐れがあり、課税上のリスクもあります。

相続した不動産の売却をお考えの方は、遺産分割の方法も含めて、相続不動産に強い専門家に相談のうえで慎重に進めることをおすすめします。

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遺産分割協議書作成や相続登記でお悩みの方は専門家へ相談を!

遺産分割協議に従って相続登記を行う場合、法定相続分や遺言書に従って登記する場合と比べて必要になる書類が多く、注意すべき点も多いです。

特に遺産分割協議書については、記載の仕方が少し違うだけで登記できなかったり、余計に課税されてしまったりする恐れがあります。

相続登記をしないまま長い時間が経過すると、遺産分割協議を行うこと自体が困難になってしまいます。

ご自身での手続きが難しそうだと感じられた方は、お早めに専門家である司法書士に相談されることをおすすめします。

遺産分割協議書作成や相続登記についてのご相談は当事務所で承ります。ご依頼を検討中の方のご相談は無料です。

記事の内容や相続手続の方法、法的判断が必要な事項に関するご質問については、慎重な判断が必要なため、お問い合わせのお電話やメールではお答えできない場合がございます。専門家のサポートが必要な方は無料相談をご予約下さい。

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この記事の執筆者

司法書士法人東京横浜事務所
代表 田中 暢夫(たなか のぶお)

紹介年間100件以上の相続のご相談・ご依頼に対応している相続専門の司法書士。ミュージシャンを目指して上京したのに、何故か司法書士になっていた。
誰にでも起こりうる“相続”でお悩みの方の力になりたいと、日々記事を書いたり、ご相談を受けたりしています。
九州男児で日本酒が好きですが、あまり強くはないです。
保有資格東京司法書士会 登録番号 第6998号
簡裁訴訟代理認定司法書士 認定番号 第1401130号

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