相続税の債務控除とは?対象になる債務とならない債務

正しい債務控除で節税を!

相続税の計算の際に、不動産や預貯金などのプラスの財産から、借入金や未払金などのマイナスの財産を差し引くことを「債務控除」と言います。

債務控除の額が大きいほど納税額が減るので、出来るだけ控除を受けたいところですが、誤って控除の対象とならない債務を含めて申告してしまうと後でペナルティを受ける可能性があります。

遺産から控除できる債務とは?

本記事では相続税の申告の際に債務控除の対象となる財産、ならない財産についてくわしく解説します。

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目次

相続税の債務控除とは?

相続税の計算の際には、不動産や預貯金などのプラスの財産の総額から、借入金や未払金などのマイナスの財産を差し引くことができます。これを「債務控除」と言います。

債務控除の対象となるものは下記の2つです。

1.債務

2.葬式費用(葬儀費用)

債務については、被相続人(亡くなった方)の死亡時点で存在した債務で確実と認められるものに限ります。

被相続人に課される所得税や住民税などは前年度の所得に応じて課税されるため、亡くなった時点で金額が確定していないことがありますが、納税義務が生じていれば、債務控除の対象になります。

また、葬儀費用は債務ではありませんが、相続税の計算の際には遺産総額から差し引くことが認められています。

以下では、債務控除できる人・できない人、債務控除の対象となる債務・ならない債務についてくわしく解説します。

債務控除できる人・できない人

債務や葬儀費用等を差し引くことができる人は、相続の発生により債務や葬儀費用等を負担することになる相続人や包括受遺者です。

包括受遺者とは、遺言によって財産を貰った方(受遺者)で、遺産の全部又は何分のいくつというように、遺産の全体に対する割合を指定されて遺贈を受けた人のことを言います。

一方、特定受遺者については、債務を引き継いでもその分を遺産から差し引くことはできません。

特定受遺者とは、遺言によって財産を貰った方(受遺者)で、「○○市○○の自宅不動産」「○○銀行○○支店の普通預金」というように、特定の財産を指定されて遺贈を受けた人のことを言います。

亡くなった方の債務の負担については、相続発生後に相続人間の話し合いで決めることが多いです。

しかし、遺言で相続人以外の方に財産を遺贈する代わりに債務を負担させたい場合(負担付遺贈)は、包括受遺者となるように遺言の記載方法に気を付けたいところです。

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債務控除の対象になる債務・ならない債務

債務控除の対象になる債務とならない債務の代表例としては、以下のようなものが挙げられます。

■債務控除の対象になる債務等

・金融機関等の第三者からの借入金

・住宅ローン・アパートローン(団信によって完済される場合除く)

・親族・知人からの借入金

・連帯債務(被相続人の負担部分のみ)

・敷金返還債務

・未払の医療費

・未払の公租公課(税金や社会保険料)

・未払の公共料金(故人の生存期間に係る分のみ)

・未払のクレジットカード利用料金や商品代金(生前に利用・購入した分のみ)

・特別寄与料

・葬式費用(葬儀費用)

■債務控除の対象にならない債務等

・団信で完済となる住宅ローン

・親族・知人からの借入で返済を求めるつもりがないもの

・保証債務

・墓地や仏壇などの非課税財産を購入した際の未払代金

・相続発生時点において確実と認められない債務(係争中の債務など)

・遺言執行費用

・相続税申告報酬等の専門家に支払う報酬

・相続財産の維持管理や承継のための費用

以下、それぞれの注意点についてくわしく解説します。

債務控除の対象になる債務

■金融機関等の第三者からの借入金

金融機関等の第三者からの借り入れは、客観的に明らかな債務なので、問題なく控除の対象となります。

相続開始時点の借入残高及び未払利息を控除することができます。

■住宅ローン・アパートローン(団信によって完済される場合除く)

住宅購入のためのローンや、アパート・マンション建設のためのローンも第三者からの借入なので、債務控除の対象となるのが原則です。

ただし、住宅ローンの場合は、契約の際に団信(団体信用生命保険)に加入していることが多いです。

ローン完済前に団信加入者が亡くなったときは保険金で残りのローンが完済されるので、債務控除することはできません。

一方、賃貸アパート・マンション建設のためのローンでは、相続税の節税対策として債務控除を受けられるように、あえて団信に加入しないケースも多いです。

この場合は相続人が引き続きローンの返済義務を負うので、債務控除することができます。

■親族・知人からの借入金

親族や親しい知人からの借り入れでも、原則として債務控除の対象になります。

ただし、故人と親族・知人との間でお金のやり取りがあっても、借り入れの実体がないとみなされれば、債務控除の対象外となります。

借り入れの実体があるかについては、借り入れの経緯や、契約書の有無、返済の状況等から総合的に判断されます。

たとえ「金銭消費貸借契約書」というタイトルの書面があっても、長期間にわたり返済の実績が全くない場合は、返済を求める意思がないので贈与にあたるのではないかと税務署から指摘されることもあるので注意しましょう。

■連帯債務(被相続人の負担部分のみ)

連帯債務とは、複数の債務者が連帯して債務全額について責任を負う債務の事です。

債務全額について責任を負うと言っても、通常は債務者間で各自が負担する分についての取り決めがあるので、債務控除できるのは被相続人の負担部分に限ります。

また、相続開始時点で他の連帯債務者が返済不能な状況にあって、かつその方に求償しても支払いを受けられる見込みがない場合は、その方の負担部分についても債務控除することができます。

■敷金返還債務

アパートやマンションを他人に貸す際に差し入れられる敷金については、退去時に返還することが原則なので、債務控除の対象になります。

ただし、不動産管理会社を通して貸していて、敷金を直接預っていない場合(被相続人が返還義務を負わない場合)は、債務控除の対象になりません。

■未払の医療費

被相続人に関する医療費のうち、相続開始時点で未払いのものについては、亡くなった後に請求が来たものを含めて債務控除の対象になります。

■未払の公租公課(税金や社会保険料)

固定資産税や所得税、住民税等の税金や、健康保険料などの社会保険料等のうち、相続開始時点で未払いのものについては、亡くなった後に金額が確定したものを含めて債務控除の対象になります。

固定資産税や住民税は1月1日時点での不動産所有者や住所がある人に対して、所得税は前年の所得に対して課税される性質のものなので、死亡時点では金額が不明なケースもありますが、すでに納税義務が生じているものについては、その後確定した金額について債務控除することができます。

また、亡くなった時点で延滞等が発生していれば延滞金等についても債務控除することができます。

ただし、相続開始以降の延滞金等は被相続人ではなく相続人の債務なので債務控除することはできません。

■未払の公共料金(故人の生存期間に係る分のみ)

電気・ガス・水道等の公共料金や電話料金は、利用した分を後払いすることが通常なので、被相続人の死亡前までの部分については債務控除することができます。

死亡した後の分は相続人が負担すべきものなので、債務控除することはできません。

■未払のクレジットカード利用料金や商品代金(生前に利用・購入した分のみ)

クレジットカードの利用料金は、使用・購入した分を後から支払うものなので、被相続人が使用した分については債務控除の対象となります。

また、家族カードの利用分についても、主契約者が被相続人で、引落し口座として被相続人の口座が指定されているものについては債務控除の対象になります。

また、故人が後払いや分割払いで商品やサービスを購入していた場合、未払い分については債務控除の対象になります。

一方、被相続人名義のクレジットカードに関する請求でも、死亡後に利用したものについては、相続人の債務となるため控除することはできません。

■特別寄与料

特別寄与料とは、被相続人の相続人ではない親族が、生前に被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をして、そのことによって被相続人の財産が維持された又は増加した場合に、相続人に対して寄与に応じた金銭の支払いを請求できるという制度です。

特別寄与料を支払った相続人はその分を債務控除することができます。

2019年7月1日の相続法改正によって始まった制度なので、対象となるのは改正以降に発生した相続についてです。

■葬式費用(葬儀費用)

葬儀費用は故人の債務ではありませんが、相続税の計算上、債務控除が認められています。

葬儀費用には、通夜・告別式に関して葬儀社に支払う費用の他、火葬料や埋葬料、お寺等に払うお布施や戒名料も含まれます。

また、死亡診断書の作成費用も葬儀費用として債務控除の対象になります。

一方、初七日、四十九日、一周忌等の法要に係る費用は原則として債務控除の対象外です。

ただし、四十九日法要の際などに行う納骨費用(石材店に支払う費用)については債務控除の対象になります。

以下、葬儀法要に関連して債務控除の対象になる費用、ならない費用等を列挙します。

【債務控除の対象になる費用】

・通夜・告別式に関して葬儀社に支払う費用

・通夜、告別式に係る飲食費用

・火葬料、埋葬料、納骨料

・遺体の搬送費用

・お布施、読経料、戒名料

・葬儀を手伝ってもらった方への心付け

・会葬御礼費用(会葬御礼費用とは別に香典返しを実施した場合)

・死亡診断書の作成費用

【債務控除の対象にならない費用】

・香典返し

・位牌、仏壇、墓石の購入費用

・初七日、四十九日、一周忌等の法要に関する費用

・医学上または裁判上の特別の処置に要した費用(死体の解剖費用など)

葬式費用の債務控除についてくわしくはこちらの記事をご覧ください。

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債務控除の対象にならない債務

■保証債務

亡くなった方が、保証人になっていた債務については、相続開始時点で確実な債務とは認められないため、債務控除の対象にはなりません。

ただし、相続開始時点で主債務者が弁済不能状態にあるなど、保証債務の履行が確実な状況で、かつ主債務者に求償しても支払いを受けられる見込みがない場合は、債務控除の対象になります。

■墓地や仏壇などの非課税財産を購入した際の未払代金

墓地や仏壇などの祭祀財産は税法上非課税とされており、相続税は課税されません。

従ってこれらの購入代金の未払い分については債務控除の対象になりません。

ただし、祭祀財産であっても純金製や過度な装飾を施したものなど、常識の範囲を超える高額なものについては相続税の課税対象となるので注意しましょう。

■相続発生時点において確実と認められない債務(係争中の債務など)

故人が生前に契約違反等による債務不履行に基づく損害賠償請求を受けていたとしても、それが係争中で履行義務を負うことが確実と言えない場合は、相続開始時点での確実な債務とは認められないため、債務控除の対象にはなりません。

一方、交通事故で死亡した加害者が被害者に支払うべき損害賠償金など、相続開始時点では債務の金額が未確定であっても、債務の存在が確実であれば、確実と認められる範囲の金額について控除することができます。

■遺言執行費用

信託銀行や弁護士、司法書士等が行う遺言執行に係る費用・報酬は、遺言の中で「遺産から差し引くことができる」等と定められていることが多いため、債務控除できそうな気がします。

しかし遺言執行費用は相続人や受遺者が負担すべきものなので、債務控除の対象にはなりません。

■相続税申告報酬等の専門家に支払う報酬

相続税申告を依頼した際の税理士報酬や、遺産分割交渉を依頼した際の弁護士報酬などは、相続人等が負担すべきものなので、債務控除の対象にはなりません。

■相続財産の維持管理や承継のための費用

相続開始後に発生した不動産管理費や清掃費用などの相続財産に関する維持管理費用は、相続人等が負担すべきものなので、債務控除の対象にはなりません。

同様に、不動産の相続登記にかかる登録免許税や司法書士報酬、金融機関の解約に必要な戸籍謄本を取得する際の費用などの相続財産の承継のためにかかる費用についても、相続人等が負担すべきものなので、債務控除の対象にはなりません。

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相続税の債務控除についてお悩みの方は専門家に相談しましょう!

被相続人の債務については、控除の金額が多ければ多いほど相続税は軽減されるので、漏れなく申告することが大切です。

申告の際には債務等の金額がわかる資料を添付するので、葬儀費用や医療費、税金等の領収書や明細書等は捨てずに保管しておきましょう。

また、債務控除の対象となるものとならないものの判断は、請求の時期だけではなく、債務の性質や支払い義務が発生した時期等を細かく確認しなくてはいけないので、意外と大変な作業で、ミスも起こりやすいです。

誤って控除の対象とならない債務を計上してしまうと、後で税務調査が入ったり追徴課税されたりする恐れもあるので、不安なく過ごすためにも、相続税の申告は相続に強い税理士に依頼することをおすすめします。

債務控除等の相続税に関するご相談を含む相続手続きについてのご相談は、当事務所及び協力先の税理士で承ります。ご依頼をご検討中の方のご相談は無料です。

記事の内容や相続手続の方法、法的判断が必要な事項に関するご質問については、慎重な判断が必要なため、お問い合わせのお電話やメールではお答えできない場合がございます。専門家のサポートが必要な方は無料相談をご予約下さい。

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この記事の執筆者

司法書士法人東京横浜事務所
代表 田中 暢夫(たなか のぶお)

紹介年間100件以上の相続のご相談・ご依頼に対応している相続専門の司法書士。ミュージシャンを目指して上京したのに、何故か司法書士になっていた。
誰にでも起こりうる“相続”でお悩みの方の力になりたいと、日々記事を書いたり、ご相談を受けたりしています。
九州男児で日本酒が好きですが、あまり強くはないです。
保有資格東京司法書士会 登録番号 第6998号
簡裁訴訟代理認定司法書士 認定番号 第1401130号

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