高齢の母の判断能力が不安、今後のために後見人を付けるべき?【遺産分割協議のために後見人等が必要か微妙なケース】

判断能力に不安がある母に後見人をつけるべきか…

ご相談前の状況

お父様が亡くなられた方からのご相談。

相続人はお母様とお子様二人。

相続人である母について、完全に認知症というわけではないが、歳のせいか最近判断能力に不安があるとのこと。

遺産分割協議を行うにあたり、後見人が必要なケースがあると聞き、今後のためにも後見人を付けることを検討しているとのことで相談にいらっしゃいました。

問題点

  • 相続人の中に意思能力が無い方がいる場合、遺産分割協議を行うにあたり、成年後見人の選任が必要。
  • さらに相続人の方が成年後見人になる場合は、特別代理人の選任も必要。
  • 子供たちとしては遺産は全てお母様に相続してもらうつもりなので、なるべく手間や費用がかからないようにしたい。

当事務所からのご提案

相続人の中に認知症等で判断能力(意思能力)が無い方がいる場合、本人に代わって成年後見人等の代理人が遺産分割協議に参加することになります。

成年後見人等は家庭裁判所に申し立てを行い、選任してもらいます。

意思能力の有無は基本的には医師の判断によります。高齢で物忘れが激しくなったからと言って、必ずしも意思能力が無いというわけではありません。

お話を伺ってみると、お母様は全く何もわからない状態ではなく、相続や遺産分割についても理解はされているようでした。

このまま通常通り遺産分割協議を進めても問題ないと思われましたが、お子様たちとしては、離れて暮らしているという事もあり、財産管理のため自らを後見人に選んでもらうことを希望されていました。

ただ、成年後見開始の申立てには時間がかかり、本人と後見人がどちらも相続人になる今回のようなケースでは、追加で特別代理人選任の手続きも必要になります。

お子様たちは遺産は全てお母様に相続してもらうことを希望されていたので、できるだけシンプルな手続きで済ませたいとのご要望がありました。

遺産分割協議ではなく、相続分の譲渡を提案

上記の事情を踏まえ、当事務所としては、お子様たちからお母様にそれぞれ「相続分の譲渡」を行ってもらうことを提案しました。

今回仮に遺産分割協議を行った後で、判断能力がない、あるいは著しく不足していると医師が判断したとしても、お母様が全財産を取得する内容であれば本人の利益は守られているので、実害はありません。

とは言え、形式的に判断されてしまうと、遺産分割協議が無効とされる可能性がゼロとは言えません。

その場合協議をやり直すために特別代理人の選任が必要になってしまいます。

一方、相続分の譲渡の場合、譲渡する本人(お子様たち)が署名捺印した「相続分譲渡証明書(及び印鑑証明書)」を添付すればお母様の単独名義にする相続登記が可能です。

万が一、譲渡を承諾するだけの判断能力が無かったとされても、本人が不利益を受けることはないので、後で成年後見人等が追認すれば済む話です。

そこで、手続きをなるべくシンプルにするために、相続登記については相続分譲渡によって行い、その後、ご長男様を後見人等候補者として後見等開始の申し立てを行うことになりました。

このように解決しました

  • お子様からお母様に対して相続分を譲渡するという内容の「相続分譲渡証明書」を作成し、署名捺印をいただきました。
  • 作成した相続分譲渡証明書を他の必要書類と共に添付し、無事相続登記が完了しました。
  • 医師の診断の結果、判断能力を欠く状態(後見相当)ではなく、判断能力が不十分な状態(補助相当)とされたため、後見ではなく補助開始の申し立てを行うことになりました。
  • 申立てに必要な資料の収集を行い、補助開始の申し立てを行いました。
  • 裁判所による審理の結果、無事長男様を補助人とする補助開始の審判がされました。

担当者からのコメント

このケースではご家族の方が以前から財産管理に不安を感じており、後見制度の利用の利用に前向きだったため、迅速かつ円満に解決することができました。

しかし、後見制度は本人の利益を守るためとは言え、やや硬直的な運用がなされるきらいがあり、使い勝手の悪さから利用を望まれない方もいらっしゃいます。

また、親族以外が後見人等に選任された場合、後見人等報酬のコストがかかり続けます。

遺産分割のために後見制度を利用する場合、法定相続分の確保が必要なため税務上有利な遺産分割ができないというデメリットが生じる可能性もあります。

後見制度は一度開始すると原則として本人が亡くなるまでやめることはできないので、遺産分割のために後見制度を利用したものの、思っていたものと違い後悔しているという話を聞くことも少なくありません。

制度の運用は時間と共に変わっていきますので、後見制度の利用を検討されている方は、制度の実情に精通した司法書士などの専門家に相談の上、場合によっては任意後見や家族信託なども検討してください。

当事務所では、認知症の方がいる場合の相続手続きや認知症に備えた生前対策・遺言書作成について数多くのサポート実績がございます。

ご依頼をご検討中の方のご相談は無料です。

生前対策サポートについてくわしくはこちら

遺産分割のために成年後見制度を利用する際の注意点についてくわしくはこちら

※記事の内容や相続手続の方法、法的判断が必要な事項に関するご質問については、慎重な判断が必要なため、お問い合わせのお電話やメールではお答えできない場合がございます。専門家のサポートが必要な方は無料相談をご予約下さい。

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この記事の執筆者

司法書士法人東京横浜事務所
代表 田中 暢夫(たなか のぶお)

紹介年間100件以上の相続のご相談・ご依頼に対応している相続専門の司法書士。ミュージシャンを目指して上京したのに、何故か司法書士になっていた。
誰にでも起こりうる“相続”でお悩みの方の力になりたいと、日々記事を書いたり、ご相談を受けたりしています。
九州男児で日本酒が好きですが、あまり強くはないです。
保有資格東京司法書士会 登録番号 第6998号
簡裁訴訟代理認定司法書士 認定番号 第1401130号

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