遺産分割のために成年後見制度を利用する際の注意点
遺産分割と成年後見制度の関係
相続手続きを進めるにあたって、亡くなった方の配偶者や兄弟が高齢のため、思うように手続きが進まないという事はよくあります。
特に多いのは認知症で判断能力が危うい方がいるケースです。
遺産分割についての話し合いは、相続人全員が自分の判断に基づいて意思決定しなくてはなりません。
高齢で亡くなった場合は相続人の意思能力が問題になることが多いです
つまり相続人の中に判断能力が十分でない方がいると、そのままでは協議を行うことはできないという事です。
このような場合には、家庭裁判所で成年後見開始の申立てを行い、選任された後見人が本人に代わって協議に参加する、という形を取ることが一般的です。
しかし、中には後見制度をよく理解しないまま申立てを行い、『こんなはずじゃなかった・・・』と後で後悔する方もいます。
そこでここでは、遺産分割のために成年後見制度を利用する際に、最低限知っておきたいこと、注意すべき点を解説します。
今後、成年後見開始申し立てをされる方は、これを読んで後見制度について正しく理解した上で申立てをしてください。
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遺産分割のために成年後見制度を利用する際の注意点
成年後見等の法定後見制度は、超高齢化が進む現代の日本社会では必要な制度ですが、この制度の目的は本人と本人の財産を保護することにあります。
遺産分割や預貯金の払い戻しなど個々の手続きを行うためだけに存在しているわけではありません。
しかし、このことをよく理解しないまま、あるいは誤解したまま、とりあえず遺産分割をしなければ財産を受け取ることができないからと申立てを行う方も少なからずいらっしゃいます。
その結果、後になって後見人の職務負担や家庭裁判所の監督、専門職後見人の対応や報酬に不満を感じているという方も一定数いるでしょう。
後見制度はあくまで本人保護のためにあるという事が理解できていれば、そのような事態は避けられるはずです。
遺産分割と成年後見制度の関係について誤解のないように、少なくとも以下で解説する点は押さえておきましょう。
1
申立ての際に遺産目録の提出が必要になる
成年後見申立ての際には、本人の財産状況を把握するために本人の財産目録(一覧表)を提出する必要があります。
さらに遺産分割協議のために申立てをする場合は、本人の財産目録の他に遺産目録の提出も求められます。
相続によって本人が取得する予定の財産についても考慮した上で後見人等が選任されるためです。
亡くなった方との関係によっては、どんな財産があるのかよくわからないこともあるでしょう。
申立ての時点で遺産目録が完璧なものである必要はありませんが、ある程度は調査して、遺産の概要ぐらいは把握しておく必要があります。
2
親族後見人を希望しても専門職後見人や後見監督人が選任されることがある
成年後見人には本人の配偶者や子供などの親族等のほか、司法書士や弁護士等の専門職が選任されることがあります。
専門職への報酬支払を避けたい、家庭の問題に他人があまり関与してほしくない等の理由で、親族を後見人候補者として申し立てをする方は多いです。
しかし、申立時に候補者を立てることは可能ですが、その通り選任されるとは限りません。
制度開始当初は候補者がそのまま選任されることがほとんどでしたが、親族後見人による横領等が後を絶たないため、親族がそのまま選任されるケースは減少してきています。*
また、親族が後見人に選任されたとしても専門職の後見監督人が同時に選任されるケースも多いです。
*2019年に専門家会議により「親族の候補者がいる場合は親族後見人を選任するように」という趣旨の決定があり、専門職後見人を原則とするそれまでの方針が変更されましたが、方針変更後も親族後見人が選任される割合は全体の2割程度にとどまっています。
申立人の意に反して専門職が選任されるかどうかは、親族間での意見対立の有無や、財産の種類、後見人候補者の職務遂行能力等の様々な要素を考慮して決定されます。
判断基準の中でも本人の財産の額は大きな比重を占めており、預貯金等の流動資産が一定額を超える場合は、基本的に専門職を関与させるとの運用がされている家庭裁判所もあるようです。
特に遺産分割のために申し立てを行う場合は、本人の財産に遺産が加わるため高額になりやすく、専門職を関与させるとの決定がされる可能性は高いでしょう。
専門職を選任される可能性が高いのであれば、初めから信頼できる専門職を候補者として申立てる、成年後見支援信託制度の利用を申し出る、と言ったことも考えられます。
自分のケースではどのような選任がされる可能性が高く、どのような申し立てを行うのが最適かは、制度の実情に詳しい専門家でなければ分からないので、成年後見制度に精通した司法書士などに相談されることをおすすめします。
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3
専門職後見人が選任されると報酬が発生する
専門職が後見人や後見監督人に選任された場合、毎月の基本報酬が発生します。
報酬額は本人の財産額によって決定され、後見人の場合は月2~6万円程度、後見監督人の場合は月1~3万円程度です。
このほか、収益不動産が多数ある、親族間に激しい対立があるなどの困難な事情がある場合や、特別な後見事務を行った場合は付加報酬が発生する場合があります。
報酬は年1回の家庭裁判所への報酬付与の申し立てによって本人の財産から支払われます。(親族後見人も報酬付与の申し立てをすることは可能です。)
こうした費用負担を望まない方は、後見制度支援信託を利用することも考えられます。
一定額以上の流動資産がある場合は家庭裁判所から後見信託利用を勧められる事が多いようです。
後見制度支援信託を利用するとまず専門職後見人(又は親族と専門職両方)が選任されます。
そして専門職後見人は、預貯金などの流動資産のうち日常的に使用する分を除いた財産を、信託銀行に信託します。
その後専門職後見人は辞任して後は親族後見人のみが後見事務を行っていくという流れになります。
後見制度支援信託を利用した場合、専門職後見人の辞任後は報酬が発生しないので、継続的な費用負担を避けることができます。
ただし専門職後見人の辞任時に信託の報酬として15万円~30万円程度の報酬が発生することは留意しておきましょう。
4
申立て後の取り下げは基本的にできない
成年後見制度は本人の保護を目的とする制度なので、申立て後(受理後)の取り下げには家庭裁判所の許可が必要になります。
親族を選任してもらうつもりが、当てが外れて専門職を選任されそうになったので申立てを取り下げようと考える方もいるかもしれません。
しかし、裁判所が成年後見制度利用の必要がない(=本人の意思能力に問題が無い)と判断しない限り、取り下げが許可される可能性は低いでしょう。
5
遺産分割では本人の法定相続分を確保しなければならない
成年後見制度は本人の保護を目的とする制度であるため、成年後見人が参加する遺産分割協議は、原則として本人の法定相続分を確保した内容のものでなくてはなりません。
いくら本人の資産が潤沢にあり、二次相続等を考えると遺産を取得しないことが望ましくても、本人の資産が減るようなことをしてしまうと後見人の善管注意義務違反を問われる可能性があります。
後見人に不利な内容の協議に賛成してしまうと、後で責任を追及される恐れがあるということです。
特に専門職が後見人や後見監督人として協議に参加する場合は、法定相続分の確保は厳格に求められるでしょう。
この点についてはあまり深く考えていない方も多いのですが、制度の趣旨を理解していない他の相続人と遺産の分け方をめぐってトラブルになることもあるので、申立人や候補者だけでなく他の相続人にも申立て前に事前にしっかりと説明して理解を得ておくことが肝心です。
6
親族後見人も相続人である場合、特別代理人の選任が必要
仮に親族が単独で後見人に選任されても、その親族後見人も相続人である場合は、本人との利害が対立するため、本人を代理して遺産分割協議を行うことはできません。
この場合、後見監督人がいれば後見人の代わりに遺産分割協議に参加することになりますが、後見監督人がいなければ、家庭裁判所に特別代理人を選任してもらう必要があります。
申立ての際には家庭裁判所に本人の法定相続分を確保した遺産分割案を提出する必要があります。
もっとも遺産分割協議を目的として申立てを行う場合は、特別代理人選任手続きの手間を省くために、はじめから後見監督人や専門職後見人が選任されることも多いです。
7
特別代理人や後見監督人が遺産分割案に同意するとは限らない
特別代理人は自分の判断で遺産分割協議に同意するので、後日協議内容が妥当でなかったと判明すれば、職務を怠ったとして責任を追及される可能性があります。
そのため場合によっては、事前に家庭裁判所のチェックを経た遺産分割案からの修正・変更を求められることもあります。
分割案は法定相続分を確保しているはずなので、取得する額について大幅な変更を要求されることは少ないでしょうが、取得する財産についての変更を要求される可能性はあります。
※例えば、不動産ではなく相当額の金銭を取得させるように、不動産も預貯金もすべて法定相続分通りに分割するように等。
また、後見監督人がいる場合は特別代理人の選任は不要なので、家庭裁判所へ事前に分割案を提出することはありませんが、後見監督人も自己の責任で協議に参加するので、やはり厳格な分割を求められる可能性はあります。
もっとも特別代理人に関しては、申立時の候補者がそのまま選任されることがほとんどです。
相続人以外の親族を候補者とすることも可能なので、家庭裁判所のチェックを経ればこのような心配はあまり必要ないかも知れません。
8
遺産分割協議終了後も後見はずっと続く
最も注意すべきはこの点です。
後見人が選任され、無事遺産分割協議が終了しても、それで後見人の役割は終了というわけではありません。
遺産分割協議や相続手続きが終了しても、本人の意思能力が回復しない限り本人保護の必要性は変わりません。
基本的には本人が亡くなるまで成年後見人の役割は続きます。
親族後見人であれば、身上監護や財産管理といった後見事務が次第に負担になってくることもあるでしょう。
家庭裁判所の監督や定期報告は本人保護という制度の趣旨からすると必要なことですが、家庭生活を監視されているようで嫌だと感じる方もいます。
親族の方が後見人となるつもりなら、この点については覚悟した上で申立てをしましょう。
また、専門職が後見人等に選任されていれば報酬負担はずっと続きます。
後見事務は決して楽なケースばかりではありませんが、本人の状態によっては事務負担が少ないこともあります。(たとえば本人の意識がほぼなく、医療施設併設型の介護施設に入所している場合など)
後見人の報酬は基本的には財産額によって決定されるので、そのような場合には、親族の方から見ると後見人の事務内容と報酬が見合ってないと感じられるかもしれません。
報酬は本人のために本人の財産から支払われるものなので、あまり気にし過ぎるのもどうかとは思います。
ただ、申立人や親族後見人は理解していても、他の相続人が自分が貰える予定の財産が減るのを快く思わず、不和が生じるケースもあるので、申立て前に十分に説明して理解を求めるべきでしょう。
なお、専門職後見人と親族後見人の複数後見の場合や、遺産分割のために後見監督人が選任されたケースでは、遺産分割協議終了後に専門職の辞任が認められるケースもあります。
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今後の生活に不安があるなら成年後見制度の利用を
ここまで遺産分割協議のために成年後見制度を利用する際の注意点を述べてきましたが、これを読んで成年後見申立てを躊躇される方もいるかもしれません。
しかし、何度か述べてきたように、成年後見制度の目的は本人や本人の財産を保護することにあります。
実際の運用にはまだまだ問題点は多いものの、制度の目的は重要であり、必要な制度であることは間違いありません。
認知症によって意思能力が不十分なら日常生活にも影響があるでしょうし、そのままでは大切な財産を誰かから詐取されるかもしれません。
また、今後医療費や施設入所費でお金が必要になった時に、意思能力が無ければ、本人の定期を解約したり、不動産や有価証券を売却したりして費用を工面することもできません。
遺産分割ができないこと以外は全く問題が無いのであれば、あえて申立てをせず、遺産もとりあえず未分割のままにしておくことも考えられます。(ただし、相続税申告の必要がある場合はお勧めできません。)
しかし、本人の今後の生活に少しでも不安があるなら、大切な財産を守るためにも、遺産分割を機に申立てをした方がいいでしょう。
申立ての際は、なるべく実情に即した選任がされるように、成年後見制度に精通した司法書士などの専門家に相談されることをおすすめします。
また、遺産分割の問題に限れば、遺言書をのこすことで解決できます。
家族信託を活用することによって、財産管理面も対策すれば成年後見制度を利用せずに解決できます。
今はまだ大丈夫でも、自分が亡くなるころには配偶者の意思能力が危うくなっているかもしれません。
認知症の問題は誰にでも訪れる可能性があります。残される家族のためにも早めに対策をしておくことをおすすめします。
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成年後見制度は現場での運用や法整備に課題が多いことは事実ですが、意思能力が不十分な方を悪意ある第三者から守るためにも必要な制度であることは間違いありません。
遺産分割協議のために制度を利用する方は、本人保護という制度趣旨をしっかり理解して、相続手続き終了後のことも考えたうえで申立てをしましょう。
制度を利用すべきかどうか迷われる方や、認知症と相続に備えた対策をしたい方は、相続と成年後見両方に強い専門家へ、一度相談してみることをおすすめします。
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