成年後見制度のすべてーこれさえ読めば大丈夫ー

成年後見制度とは

成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害等の影響により判断力が不十分な方が、そのことによって不利益を受けないように、生活面や法律面で支援・保護するための制度です。

今や4人に1人以上が65歳以上という超高齢化社会において、認知症はとても多くの方にとって身近な問題です。

成年後見制度は判断能力の衰えた方を支援・保護するための制度です。

成年後見や後見人という名前ぐらいは聞いたことがある方も多いかも知れません

しかし名前を聞いたことはあるという方でも、具体的にどのような制度で、どのような時に利用すればいいのかを知っている方はまだまだ少ないように思います。

そこでここでは、成年後見制度についてよく知らない方のために、どのような制度で、どのような時に利用すればいいのか、制度を利用するメリットや問題点など、一からわかりやすく解説します。

かなりのボリュームの記事になりますが、相続問題とも大きく関係してくる制度なので、ぜひ最後までお読みいただければと思います。

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目次

成年後見制度の概要

まず、成年後見制度とはどのような制度なのかについて、イメージをつかみやすいように大まかに解説します。

制度の趣旨・目的

成年後見制度は意思能力(判断能力)が十分でない本人の身体及び財産を保護することを目的とする制度です。

このような趣旨から、後見人等が本人の財産を減少させるような行為を行うことは、原則としてできません。

例え本人の家族(子供や配偶者など)のためであっても同様です。

また、一度制度の利用を始めると、本人保護の必要性が無くならない限り、利用を取りやめることはできません。

基本的には本人が亡くなるまでずっと続くものと考えて下さい。

どんなときに必要なのか

例えば、一人暮らしや日中一人になることが多いお年寄りの場合です。

判断能力が不十分なことに付け込んで、必要のない高額商品を売りつけようとする悪徳業者に騙されて契約してしまっても、成年後見制度を利用していれば、後から契約を取り消すことができます。

また、以下のようなことを行う場合に本人の意思能力が不十分であれば、成年後見制度を利用する必要があります。

・預貯金の管理・解約

・保険金の受取

・不動産や有価証券の処分

・相続手続(遺産分割)

・訴訟手続き

・介護保険契約

具体的にはどのようにして支援するのか

本人や関係者から申立てがあった場合、家庭裁判所による審理が行われます。

その結果後見制度の利用が相当だと判断されれば、本人の判断能力の度合いに応じて、補助人・保佐人・後見人が選任されます。

選任された補助人・保佐人・後見人は、それぞれの権限に従って、本人がした法律行為について同意や取り消しをしたり、本人の代わりに法律行為や財産管理を行うことによって本人の支援・保護を図ります。

なお、成年後見制度のうち、後述する任意後見制度については同意権・取消権はなく、当初は家庭裁判所の関与はありません。

本人の代わりに法律行為や財産管理を行うことによって本人の支援・保護を図るという点では同じです。

成年後見制度の種類

成年後見制度概要図(クリックで拡大します)

成年後見制度のうち、本人のために、家庭裁判所が支援する人を決定する制度のことを法定後見制度と言います。

これはすでに判断能力が不十分な方のための制度です。

法定後見制度は後述する『補助』類型を除いて、本人の同意が無くても親族等による申立てが可能であり、家庭裁判所の判断によって後見人等が選任されます。

一方、今はまだ十分な判断能力があるが、将来判断能力が衰えた時に備えたい方のための制度として、任意後見制度が存在します。

任意後見制度とは、あらかじめ本人と任意後見人の間で任意後見契約を結んでおき、本人の判断能力が不十分になった段階で、契約によって定められた後見事務を、本人に代わって任意後見人が行う仕組みのことです。

任意後見契約は、本人と任意後見人候補者との契約であり、どこまでの事務を委任するかは、当事者の間で自由に決めることができます。

※制度の趣旨にそぐわないような内容にすることはできません。

契約は公正証書を作成して締結する必要があります。

契約の段階では家庭裁判所の関与はありませんが、判断能力が不十分になったために後見事務を開始する際には、家庭裁判所に申し立てを行い、任意後見監督人を選任してもらう必要があります。

任意後見契約には、即効型、移行型、将来型の3つの利用形態がありますが、最も多く利用されているのは移行型です。

移行型は、本人の意思能力があるうちは任意財産管理契約に従って財産管理を行い、意思能力が無くなった段階で任意後見契約を発動させる契約形態です。

法定後見制度の3類型

法定後見制度は判断能力(意思能力)の有無や低下・不足の度合いによって次の3つのパターン(類型)に分かれます。

現状では法定後見制度の利用者のうち、約8割が後見類型となっており、補助や補佐の利用者は割合としては少ないものとなっています。

法定後見制度の3類型(クリックで拡大します)

◎補助類型・・・判断能力の低下・不足が比較的軽度な方

(日常生活に支障はないが、重要な財産の処分や重要な契約についての判断に自信がない方)

■補助類型の概要

スクロールできます
支援・保護が必要な方の呼び方被補助人
支援・保護する方の呼び方補助人
本人の状態事理を弁識する能力が不十分
鑑定の要否原則として必要
※実際に鑑定が行われるのは全体の1割程度
申立時の本人の同意必要
同意権(取消権)の範囲民法13条1項が定める行為のうちの一部
代理権の付与別途申立ての範囲内で付与される(本人の同意が必要)
制度を利用した場合の資格等の制限特になし

◎保佐類型・・・判断能力の低下・不足が顕著な方

(日常生活にほとんど支障はないが、重要な財産の処分や重要な契約についての判断が困難な方)

■保佐類型の概要

スクロールできます
支援・保護が必要な方の呼び方被保佐人
支援・保護する方の呼び方保佐人
本人の状態事理を弁識する能力が著しく不十分
鑑定の要否原則として必要
※実際に鑑定が行われるのは全体の1割程度
申立時の本人の同意不要
同意権(取消権)の範囲民法13条1項が定める行為
※家庭裁判所の審判によってその他の行為についても同意権・取消権を付与してもらうことは可能
代理権の付与別途申立ての範囲内で付与される(本人の同意が必要)
制度を利用した場合の資格等の制限医師、税理士等の資格や会社役員、公務員等の地位を失う

◎後見類型・・・判断能力が(ほとんどあるいはまったく)ない方

(日常生活に支障があり、重要な財産の管理・処分や重要な契約についての判断ができない方)

■後見類型の概要

スクロールできます
支援・保護が必要な方の呼び方(成年)被後見人
支援・保護する方の呼び方(成年)後見人
本人の状態事理を弁識する能力を欠く状況
鑑定の要否原則として不要
※医師の診断書の提出は必要
申立時の本人の同意不要
同意権(取消権)の範囲日常生活に関するもの以外の行為
代理権の付与財産管理・身上監護のために必要な包括的代理権が当然に付与される
制度を利用した場合の資格等の制限医師、税理士等の資格や会社役員、公務員等の地位を失う

補助人・保佐人・後見人には誰がなる?

補助人・保佐人・後見人になるのに特別な資格は必要ないので、原則として誰でもなることができます。

ですが、実際には本人の家族・親族か専門職が選任されることがほとんどです。

専門職は司法書士、弁護士、社会福祉士がなることが多いですが、中でも司法書士が選任される割合が最も多いです。

なお、次の方は補助人・保佐人・後見人になることができません。

(1) 未成年者
(2) 成年後見人等を解任された人
(3) 破産者で復権していない人
(4) 本人に対して訴訟をしたことがある人、その配偶者または親子
(5) 行方不明である人

後見監督人とは

親族後見人の後見事務遂行に不安がある場合など、家庭裁判所が必要と判断した場合は、職権で専門職の後見監督人が選任されることがあります。

後見監督人は、その名の通り家庭裁判所の代わりに後見人を直接に監督します。

後見監督人が選任されている場合、後見人の事務報告等は後見監督人に対して行い、家庭裁判所は後見監督人からの報告を通じて、後見事務が適正に行われているかをチェックすることになります。

後見監督人を選任するかどうかは家庭裁判所が判断するため、例え親族や後見人が監督人が付くことを希望しない場合でも、必要な場合には選任されます。

後見監督人が選任されることが多いケースとしては、次のようなケースが挙げられます。

・親族間での対立・紛争がある場合

・本人の財産が多い場合

・相続手続きや不動産の売却など専門的知識を要する行為が予定されている場合

最近では、後見制度利用者数の増加により家庭裁判所の監督が追い付かないため、一定額以上の財産がある場合は、後述する後見制度支援信託を利用しないのであれば、原則として専門職の後見監督人(又は後見人)を関与させる、との運用がされている所が多いようです。

なお、補助や保佐類型の場合は、後見監督人と同様の役割を果たす補助監督人や保佐監督人が選任されることがあります。

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成年後見制度を利用するメリット・デメリット

現状、成年後見制度を利用される方は、本人の代わりに契約をする等の必要に迫られてという方がほとんどです。

申立てを行い成年後見等が開始すると、本人の資格や行為について制限されることや一定のコストが発生することもあります。

後になって『こんなはずじゃなかった・・・』と後悔することのないように、制度を利用するメリットと合わせてデメリットについても十分理解しておきましょう。

法定後見制度を利用するメリット

  • 本人に代わって、重要な契約等の法律行為や財産管理を行うことができる。
  • 判断能力の不足・欠如に付け込まれて、本人に不利益な契約を結ばされても、日常行為に関するものを除いて取消すことができる。(任意後見では取消権はない)
  • 親族等による財産の使い込みを防ぐことができる。
  • 親族から財産の使い込みを疑われている場合は、第三者に財産を管理させることで公正を保つことができる。

法定後見制度を利用するデメリット

  • 専門職が選任された場合、報酬が発生する。(親族後見人等も報酬を求めることは可能)
  • 申立てが受理された後は、本人保護の必要が無い場合を除いて、基本的に取り下げることはできない。
  • 一度後見開始等が決定されると、原則として本人が亡くなるまで取り消されることはない。
  • 申立時の希望通りに後見人等が選任されるとは限らない。
  • 後見人による横領等のリスクはある。
  • 投資的運用など、本人の財産を減少させる恐れのある行為はできなくなる。
  • 株式会社の取締役や士業などの地位・資格を失うことになる。
  • 専門職後見人等による職務遂行や家庭裁判所への報告義務を、第三者による家庭への介入と感じる方もいる。

任意後見制度を利用するメリット・デメリット

任意後見制度特有のメリットとしては以下のことが挙げられます。

・本人の希望する人に後見人になってもらうことができる。

・後見事務の内容をある程度自由に決めることができる。

逆にデメリットとしては以下のことが挙げられます。

・任意後見人には同意権や取消権が無い。

・任意後見が必要な状態にも関わらず、家庭裁判所への申立てがされない可能性がある。

・移行型では、任意財産管理契約の段階での受任者を監督する機能が無い。

任意後見制度の利用は、委任者と受任者の間に高度な信頼関係があることが前提となります。

身近な人にふさわしい人がいなければ、士業などの専門家へ依頼しましょう。

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成年後見人等の仕事(職務内容)

成年後見人等の仕事は、大まかに言うと本人のために財産管理と身上監護を行う事です。

従って以下のような行為は基本的に後見人等の職務外になります。

・介護

・日常生活の世話

・身元保証人(身元引受人)になること

・医療行為への同意

・葬儀・火葬の手配や遺品整理などの死後事務

ただし、親族後見人の方は親族の立場でこれらの行為を行えば良く、あまり気にする必要はありません。

一方、第三者後見人の場合でも、本人が身寄りのない方である場合は、本来職務外であるこれらの行為も行わざるを得ないこともあります。

この第三者後見人の職務範囲の限界に関しては、早期の法整備が待たれるところです。

成年後見人等の具体的な職務内容は以下の通りです。

補助人・保佐人の仕事(職務内容)

補助人・保佐人は本人に一定の意思能力がある場合に選任されるので、後見人のようにすべての法律行為を代理するわけではありません。

補助人・保佐人は法律(民法13条1項)が定める行為について代理権や同意権・取消権を行使することができます。

具体的には次のような行為です。

  • 貸金の元本の返済を受けることや、預貯金の払い戻しを受けること。
  • 借金やローン契約を結ぶこと、保証人になること。
  • 不動産等の重要な財産について、購入・売却・担保の設定などをすること。
  • 民事訴訟で自ら訴えを起こすこと。
  • 贈与すること、和解や仲裁合意をすること。
  • 相続の承認又は放棄をすることや、遺産分割協議を行うこと。
  • 贈与の拒絶や遺贈の放棄をすること、負担付の贈与や遺贈を承認すること。
  • 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
  • 一定の期間を超える賃貸借契約を結ぶこと。

保佐人はこれらの行為全てについての同意権・取消権があります。

また、申立てによってこの他の行為についても同意権・取消権を与えてもらうことができます。

補助人が同意権・取消権を行使できるのは、上記の行為のうち本人が希望する一部の行為についてです。

また、補助人・保佐人共に、別に申し立てる事によって、本人が希望する行為についての代理権を与えてもらうことが可能です。

代理権の内容は、上記のような財産管理に関する行為に限られるわけではなく、医療契約や介護契約などの身上監護についての代理権を与えてもらうことも可能です。

保佐人や補助人はこれらの行為について、同意権や取消権、場合によっては代理権を行使して、本人の保護を図ることが職務内容となります。

補助人、保佐人共に家庭裁判所への定期報告(原則として年1回)を行う必要があるほか、家庭裁判所からの求めがあれば、事務報告をしなくてはなりません。

また、代理権が付与されている場合は、選任後に本人の財産や年間の収支状況を調査・把握して、家庭裁判所に財産状況や年間の収支計画を報告しなくてはなりません。

成年後見人の仕事(職務内容)

成年後見人は本人の意思能力が無い場合に選任されるので、日常生活に関するものを除く法律行為全般についての包括的な代理権(及び同意権・取消権)が与えられます。

後見人の職務内容は、身上監護に関するものと財産管理に関するものにわかれます。

■身上監護

身上監護とは本人の生活や療養看護に必要な法律行為を行うことです。

具体的には住居に関する賃貸借契約の締結や賃料の支払い、公共料金や税金の支払い、介護保険の認定申請、介護医療契約、入院契約、介護契約その他の福祉サービス利用契約、福祉関係施設入所契約などの締結がこれにあたります。

介護そのものや、日常生活の世話、医療行為への同意などは成年後見人の職務内容や代理権の内容には含まれません。

■財産管理事務

後見人は本人のすべての財産を管理するため、財産管理に必要な一切の行為について代理権を行使することができます。

補助人・保佐人のように一部の行為に限られるわけではなく、また本人の希望(同意)は関係ありません。

本人に代わってこれらの行為を行い、本人の支援・保護を図ることが後見人の職務内容となります。

原則年1回の定期報告と家庭裁判所からの要請があった場合の報告義務については、補助・保佐の場合と同様です。

また、後見人には当然に代理権が付与されるので、選任後に家庭裁判所に対して、財産状況や年間の収支計画を報告しなくてはなりません。

後見監督人(補助監督人・補佐監督人)の仕事(職務内容)

後見監督人の職務は後見人を監督することです。具体的には以下のような事務を通じて本人の財産状況を把握し、後見人を監督することになります。

  • 財産調査及び財産目録作成に立ち会うこと。
  • 後見人が本人に対して有する債権・債務についての申し出を受けること。
  • 後見事務の報告や財産目録の提出を後見人に求めること。
  • 後見事務や財産状況について調査すること。
  • 後見事務について必要な処分を家庭裁判所に申立てること。
  • 後見人に不正行為がある場合に解任の申立てを行うこと。

この他、後見人が民法13条1項が定める行為(上記の保佐人の同意を要する行為)を行う場合は、元本の領収を除いて後見監督人の同意が必要になります。

上記のような後見人の監督事務以外にも、後見人がいなくなった場合の新たな後見人の選任申立てや、急迫の事情がある場合に必要な処分をすることなどは後見監督人の職務となります。

また、本人と後見人の利害が対立する行為(利益相反行為)を行う場合は、後見人に代わって後見監督人が本人を代理することになります。

典型的な例は、本人と後見人が共同相続人である場合の遺産分割協議です。

後見監督人は後見人を直接監督する立場にあるので、後見監督人が選任されている場合、財産状況や事務処理についての報告は後見監督人に対してすることになります。

家庭裁判所に対する報告は、後見人からの報告に基づき後見監督人が行います。

なお、補助や保佐の場合にも、必要に応じて補助監督人や保佐監督人が選任されることがあります。

その職務内容は補助人・保佐人の職務内容の範囲内に限られるということ以外は、後見監督人とほぼ同じです。

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成年後見人等の報酬

成年後見人が選任された場合は、毎月の基本報酬のほか、事務内容によって付加報酬が発生します。

報酬額は年に1回もしくは後見事務終了時に行う家庭裁判所への報酬付与の申立てによって決定され、本人の財産の中から支払われることになります。

専門職後見人の報酬額の目安

成年後見人の基本報酬額は管理財産額によって決定されます。

その目安は以下の通りです。

 管理財産額基本報酬額の目安
1,000万円まで2万円
1,000万円超5,000万円まで3~4万円
5,000万円超5~6万円

この他、本人の身上監護に特別困難な事情があった場合や、遺産分割協議や不動産の売却などの特別な行為を行った場合は相当額の報酬が付加されます。

なお、事案によっては成年後見人が複数選任されることがあります。

その場合でも報酬が2倍3倍になるわけではなく、上記の報酬額を事務の分担の割合に応じて按分した額が、それぞれ支払われることになります。

親族後見人の報酬額の目安

実は成年後見人の報酬についての規定は、専門職か親族かによって異なることはないので、親族の方でも報酬付与の申し立てを行えば、上記の目安に応じた報酬を受け取ることができます。

報酬は職務遂行の正当な対価として支払われるものであり、親族の方が受け取っても、後ろめたく感じる必要はまったくありません。

とは言え、そもそも専門職後見人への報酬の負担を回避するために親族後見を希望される方も多いので、親族の方が報酬付与を希望される割合はそれほど高くありません。

特に配偶者や子供が後見人になる場合は、もともと生計を同じくしてきたという事情や、配偶者や親の面倒を見るのは当然という考えなどから報酬を希望されない方が多いようです。

配偶者や子供は相続人として遺産を受け取ることができるということもあるでしょう。

ただし、先順位の相続人がいる場合の兄弟姉妹や甥姪など、相続人にならない方が後見人である場合には、不公平感を解消するためにも報酬を受け取ることをおすすめします。

任意後見人の報酬額の目安

任意後見人の報酬額は当人同士の契約で自由に決めることができます。

ただし、財産額や事務内容の難易度に比べて報酬額があまりにも高過ぎる場合は、後見監督人等の申立てによって、法定後見開始の審判がされてしまうこともあるので注意しましょう。

後見監督人の報酬額の目安

後見監督人の報酬額もやはり管理財産額によって決定されます。

その目安は以下の通りです。

 管理財産額基本報酬額の目安
5,000万円まで1~2万円
5,000万円超2.5~3万円

後見監督人の場合、後見人の半分程度が報酬額の目安となるようです。

なお、後見監督人の報酬は後見人とは別に発生します。後見人の報酬と按分されるわけではありません。

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成年後見等開始申立ての流れ

成年後見等の開始決定は裁判所の職権でされることはないので、管轄の家庭裁判所に申立てを行う必要があります。

申立て手続きの大まかな流れや必要書類は以下の通りです

手続きの流れ

1.(準備)申立てに必要な資料・書類を集める。

2.(申立て)管轄の家庭裁判所に後見開始の審判を申立てる。
※通常は申立時に家庭裁判所で受理面接が行われる。

3.(審理)家庭裁判所によって申立人及び候補者の面接、本人の面接、親族への照会などが行われる。
※申立人や候補者の面接は受理面接という形で行われるのが通常。本人の面接や親族への照会は省略されることも多い。

4.(鑑定)必要に応じて医師による鑑定が行われる。
※省略されることが多い。

5.(審判)家庭裁判所によって成年後見人が選任される。

6.(通知・後見開始)申立人と後見人に審判書謄本が郵送され、審判確定後、後見開始の旨が登記される。

申立先

◎本人の住所地を管轄する家庭裁判所

申立てができる人

◎本人、配偶者、4親等内の親族など

また、下記のような事情がある場合に、本人保護の必要があるときは、市区町村長も申立てをすることができます。

・4親等内の親族がいない場合

・4親等内の親族がいても、音信不通だったり、申立を拒否している場合

・虐待等の理由により、親族による申立が適当でない場合​

申立てに必要な費用

◎手数料(収入印紙)

■後見等開始申立て手数料一覧(単位:円)

 後見保佐補助
申立手数料(収入印紙)800800~2400※11600~2400※2
登記手数料(収入印紙)240024002400

※1 

  • 保佐開始の申立てのみ・・・800円
  • 保佐開始の申立て+同意権追加付与の申立て・・・1600円
  • 保佐開始の申立て+代理権付与の申立て・・・1600円
  • 保佐開始の申立て+同意権追加付与の申立て+代理権付与の申立て・・・2400円

※2

  • 補助開始の申立て+同意権付与の申立て・・・1600円
  • 保佐開始の申立て+代理権付与の申立て・・・1600円
  • 保佐開始の申立て+同意権付与の申立て+代理権付与の申立て・・・2400円

◎連絡用の郵便切手

裁判所により異なるがおおむね3000~5000円程度

◎医師による鑑定手数料

5~10万円程度

ただし実際に鑑定が行われるのは全体の1割程度

◎その他に必要になる費用

・戸籍、住民票、登記されていないことの証明書等の発行手数料…各数百円程度

・本人の精神状態についての医師の診断書作成料金…5000~1万円程度

※参考

司法書士等の専門家に申立ての代行を依頼した場合の報酬相場

10~15万円程度

申立てに必要な書類

成年後見申立時に必要になる主な書類は以下の通りです。

なお、申立ての事情によっては追加で別の書類が必要になることもあります。

詳しくは各家庭裁判所にお問い合わせください。

■本人に関して必要な書類

・申立書

・申立事情説明書

・親族関係図

・戸籍謄抄本

・親族の同意書

・住民票(本人部分のみでOK、本籍の記載不要)

・登記されていないことの証明書

・本人の財産目録及びその資料 (不動産登記簿謄本、預貯金通帳のコピー等)

・本人の収支状況報告書及びその資料 (領収書のコピー等)

・診断書(成年後見用)、診断書付票 (主治医等に作成してもらう)

・本人の健康状態のわかる資料(精神障害者保健福祉手帳、療育手帳(愛の手帳)、要介護度が分かる書面(介護保険認定書等)等)

■後見人候補者に関して必要な書類

・後見人等候補者事情説明書

・戸籍謄本(本人と候補者が同一戸籍の場合は戸籍謄本1部でOK)

・住民票(本人と候補者が同一世帯の場合は世帯全部の住民票1部でOK)

申立てから審判までの期間

申立てから後見人等が選任されるまで(後見等開始の審判がされるまで)の期間は、申し立てを行う裁判所や時期にもよりますが、おおむね3か月以内には審判がされるようです。

以前に比べれば審理期間は短縮傾向にあるようで、当事務所で担当した事例では、受理面接時に申立て(受理面接)から審判まで1か月~1か月半程度と言われたものの、実際には10日程度で審判された事もあります。

もちろん、本人の精神状態その他の様々な事情や提出書類に不備が無いか等によって期間は変わってきます。

必要書類の集め方や申立ての際の注意点など、申立て手続きについてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

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後見人等選任(後見等開始の審判)後の流れ

成年後見開始等の審判があっても、それだけで後見人としての職務のすべてを開始できるわけではありません。

金融機関や役所等で必要な手続きを行うには、後見人であることの証明書を提出する必要があるためです。

後見開始の審判があった後、家庭裁判所への初回報告までの大まかな流れや必要な手続きは以下の通りになります。

後見開始の審判後の流れ

1.後見開始の審判があった後、2週間の経過で審判が確定する。

2.審判確定後10日~2週間程度で東京法務局に後見開始の旨が登記される。
※登記される前に後見事務を開始したい時は、申立てをした家庭裁判所で確定証明書を入手すれば、審判書謄本と併せて提出することで各機関での手続きが可能になります。

3.成年後見登記事項証明書を取得する。
※郵送の場合は東京法務局後見登録課へ請求。窓口の場合は全国の法務局・地方法務局本局で請求可能。(支局や出張所では請求不可)

4.被後見人の財産の調査して、財産目録を作成する。
※財産目録は家庭裁判所への初回報告時に提出する。

5.被後見人の収支状況を把握して、年間の収支予定を作成する。
※収支報告書は、財産目録と一緒に家庭裁判所への初回報告時に提出する。

6.金融機関や役所などで必要な届出・手続きを行う。
※預金通帳への記帳や残高証明書の取得など、財産調査や収支状況の把握のために同じ所で必要になる手続きも多いので、4~5は並行して進めるのが望ましい。

7.財産目録、収支報告書、資料等を提出して家庭裁判所に初回の報告を行う。
※提出期限は審判日からおおむね2か月以内だが、どうしても間に合わない場合は家庭裁判所に必ず連絡する。

審判が確定するまで2週間、登記が完了するまでさらに2週間程度かかるため、後見人としての活動開始から初回報告時まで、実質的には1か月程度しかありません。

親族後見人の方にとっては、慣れないこともありタイトなスケジュールとなります。

仕事などでなかなか時間が取れない方は、事前に専門家に相談して、申立ての段階でしっかりと財産調査及び収支の把握を行っておいた方がいいでしょう。

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後見制度支援信託とは

後見制度支援信託とは、本人の財産のうち、日常的に必要になる分を除いた金銭を信託銀行等に信託して、残りの金銭を預貯金等として後見人が管理する仕組みのことです。

最近では一定額以上の流動資産(現金や預貯金)がある場合に、家庭裁判所から利用を促されることが多いようです。

後見制度支援信託を利用する場合の手続きの流れ

申立て当初から後見制度支援信託を利用した場合の手続きの流れは以下のようになります。

なお、申立てから選任までの流れは通常の場合と同じです。

1.信託を行うための専門職後見人(又は専門職後見人と親族後見人の両方)が選任される。

2.専門職後見人によって財産及び収支状況の調査が行われ、後見信託の利用が適しているか検討される。

3.後見信託の利用が適していると判断した場合、専門職後見人は家庭裁判所に信託契約を締結する旨の報告書を提出する。
※専門職後見人が、信託する財産の額や親族後見人が日常的な支出に充てるための額などを設定し、家庭裁判所に報告する

4.報告書を踏まえ、家庭裁判所が後見信託の利用に適していると判断した場合、専門職後見人に指示書を発行する。 

5.専門職後見人は信託銀行等に指示書を提出して、信託契約を締結する。

6.信託契約締結後、専門職後見人は辞任し、親族後見人に財産の引継ぎを行う。
※当初専門職後見人のみが選任されている場合は、この段階で親族後見人が選任される。

7.専門職後見人の辞任後は、親族後見人のみが通常の後見業務を行う。
※親族後見人が管理するのは信託された金銭を除く財産。
※本人のために多額の支出が必要になった場合は、家庭裁判所に報告書を提出して指示書を発行してもらい、指示書を信託銀行等に提出して払い戻しを受ける。

後見制度支援信託を利用するメリット

後見制度支援信託を利用するメリットとしては、本人の流動資産のうち大部分を信託することになるので、後見人の財産管理の負担が減り、後見人による横領や不正使用を防止できるということが挙げられます。

また、信託後は親族後見人のみが後見業務を行うので、毎月の基本報酬が発生しないという点もメリットの一つです。

信託終了後、専門職後見人の辞任時に報酬として15~30万円程度が本人の財産から支払われますが、それでも専門職後見人や後見監督人が選任された場合に支払う年間の報酬額よりは低く抑えることが可能です。

実際のところ、本人に一定額以上の流動資産がある場合は、後見制度支援信託を利用しないのであれば、専門職を(後見人又は後見監督人として)関与させるという運用がされている裁判所も多いです。

どちらかを選ぶのであれば、最終的に支払うことになる報酬総額を考えて、後見制度支援信託の利用を選択される方が多いようです。

さらに、後見監督人については選任についての希望を述べること(候補者を立てること)はできませんが、信託を担当する専門職後見人については、問題が無ければ希望する候補者が選任されるという点もメリットと言えるかもしれません。

ただし、信託後見人として選任されるためには、家庭裁判所の名簿に信託を行うことができる後見人として記載されている必要があります。

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相続と成年後見制度の関係

相続と成年後見は、どちらも主に高齢者に大きく関係する問題であり、互いに深く関わってきます。

相続手続きのために遺産分割協議を行う場合、相続人の中に認知症で意思能力が無い方がいれば、その方の代わりに遺産分割協議に参加する成年後見人を選任してもらう必要があります。

亡くなった方の配偶者は高齢であることが多いため、遺産相続の現場ではこのようなことはよく起こります。

実際、成年後見の申立てをした動機でも、相続手続き・遺産分割のためという理由は上位に位置しています。

しかし、遺産相続が絡むと本人の財産が多額になることが多いため、思ったような選任がされず、申立人や親族から不満が出てくるケースも多いのです。

また、親族が後見人に選任された場合でも、次第に後見人の職務が負担になってきて、申立てを後悔する方もいます。

後で後悔することのないように、相続手続き・遺産分割協議のために成年後見申立てを行うにあたっては、少なくとも以下の点については理解しておきましょう。

 ・申立ての際に、本人の財産目録だけでなく、遺産目録も提出する必要がある。

・本人が取得する遺産を含めると財産額が多額になりやすいため、専門職が後見人や後見監督人に選任されたり、後見制度支援信託の利用を促される可能性が高い。

・成年後見人が参加する遺産分割では、原則として本人の法定相続分を確保しなければならない。

後見人も相続人である場合、特別代理人等の選任が必要になる。

・遺産分割協議終了後も、後見人の職務はずっと続く。

遺産分割のために成年後見制度を利用する際の注意点について、くわしくはこちらをご覧ください。

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成年後見制度の問題点・課題

成年後見制度は、意思能力が十分でない方の保護という理念に基づくものであり、現在の超高齢化社会において、なくてはならない制度です。

しかし、制度の現状としては後見人による財産の横領や不正使用、家庭裁判所による監督機能の限界、第三者後見人の人材不足等様々な点で問題があるのも事実です。

中でも、後見人による財産の使い込みは深刻な問題です。

ここ数年は被害額や件数はやや減少傾向にあるものの、依然として年間数十億円もの不正使用による被害が報告されています。

不正の9割超は親族後見人によるものですが、残念ながら専門職後見人による不正も毎年報告されています。

専門職後見人は高度な倫理観に基づき職務を遂行することを期待されているので、本来であれば不正件数はゼロであるべきです。

国民の後見制度への信頼を維持するためにも、組織的な管理・報告体制の整備や研修制度の充実等が望まれます。

一方でこうした不正を防ごうとするあまり、家庭裁判所の対応がやや硬直的なものになって来ており、誠実に職務をこなしてきた親族後見人の方からは不満が上がっています。

確かにこれまで何の問題もなかったにも拘らず、資産が多いというだけの理由で、専門職の関与か後見信託を利用するかの選択を迫られるというのは、まるで不正を疑われるようで面白くないでしょう。

監督人の報酬や信託のために発生する報酬も決して安いものではありません。

今後もしばらくは制度利用者数は増加していくと思われるので、家庭裁判所のみでの監督が限界に来ているのであれば、第三者機関による補助的監督制度の導入なども検討すべきでしょう。

この他にも、利用者全体に占める補助・補佐類型の割合の少なさ、補助・保佐類型での本人による行為についての金融機関の対応、緊急時における後見人の権限の限界など制度の問題点や課題はたくさんあります。

現時点では、こうした問題点はおろか、制度の表面的な部分でさえ一般の方に十分に浸透しているとは言えず、実際に利用してみて制度の理想と現実との間に大きなギャップを感じる方も少なくありません。

中にはそうしたギャップから、利用を後悔する方もいます。

利用後の不満やトラブルを最小限にとどめるには、申立人や候補者だけでなく、周りの親族の方も含めて、制度の理念と実情について十分に理解しておくことが大切です。

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専門職後見人という選択

一般的に成年後見制度を利用される方の多くは、親族を後見人に、と考える方が多いと思います。

確かに通常は一番身近な人が後見人になった方が本人の希望にもかなうでしょうから、同居家族や近くに住んでいる親族がいるケースでは、可能な限りその方が後見人になられることをおすすめします。

しかし、本人と親族が離れて暮らしているケースや、近くに住んでいてもとても多忙なケース、あるいは同居している親族も高齢のため後見事務を行うことができるか不安があるケースなど、親族が後見人になることが難しいケースもあると思います。

また、同居している親族に財産の使い込みの疑いがある、あるいはそのような事実は無いにもかかわらず、自分が他の親族から使い込みを疑われているといった場合は、公正を保ち、後の紛争を防ぐためにも、親族ではない第三者を後見人にすべきです。

そのようなケースでは、司法書士や弁護士などの信頼できる専門職を後見人とすることを検討してみてください。

確かに専門職が後見人になると一定の報酬は発生します。

しかし費用を抑えるために親族を選任してもらったとしても、無理をしてご自身の生活や体調に大きな支障が出てしまっては本末転倒です。

また、親族間で財産管理や身上監護について意見の対立がある場合は、第三者後見人への報酬は、使い込みを防ぎ公正を保つために必要な支出と考えるべきです。

たとえ親族を後見人候補者として申立てしても、家庭裁判所がその方を後見人とすることに問題があると判断すれば、専門職が後見人に選任されます。

あるいは親族が選任されても、専門職との共同後見や後見監督人をつけるという判断がされることもあります。

その場合、家庭裁判所の選んだ専門職が付くことになりますが、専門職なので事務能力に問題はないとしても、親族と人間的にそりが合わないという可能性もあります。

後見開始の審判があった後は、思ったような選任がされないからという理由で不服を申し立てたり、制度の利用を取りやめることはできません。

また、不正があれば別ですが、後見人とそりが合わないという理由で解任を求めても、まず認められません。

そうであれば、初めから自分が信頼できると思う専門職に後見人(候補者)になってもらうというのも一つの手ではないでしょうか。

また、上記のような事情がなく、親族後見を希望する場合でも、申立ての段階で専門家に相談するメリットはあります。

最終的にどのような選任がされるかは家庭裁判所の判断になりますが、どのような場合にどのような選任がされやすいかという傾向のようなものはあります。

こういったことについてのアドバイスは制度の実情に詳しい専門家でなければできません。

家庭裁判所への申立てに業務として関与できるのは司法書士と弁護士のみです。

自分の場合は誰を候補者にして、どのような申立てを行うべきかについてのアドバイスが欲しい方は、そもそも制度の利用が必要かも含めて、制度の実情に詳しい専門家に相談することをおすすめします。

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成年後見制度についてのよくある質問

成年後見制度についてのよくある疑問・質問・注意点などをQ&A方式で解説していきます。

本人の子供である私を後見人に選んで欲しいのですが、申立時に希望すれば必ず選ばれますか?

申立時に候補者についての書類も提出しますが、必ずその通り選任されるとは限りません。

成年後見の申立時には、後見人候補者についても事情説明書などの書類を提出することになります。

以前は親族が候補者であっても、特に問題が無ければ候補者がそのまま選任されることが多かったのですが、親族後見人による横領等が絶えないため、最近では専門職を後見人や後見監督人として関与させるケースも増えてきています。

事案にもよりますが、親族後見人がそのまま選任されるとは限らないという事は頭に入れておきましょう。

選任の審判があった後2週間は不服申し立てを行うことができますが、誰が後見人に選任されたかについての不服の申立ては行うことができません。

なお、司法書士や弁護士等の専門職を候補者とした場合は、その方が家庭裁判所の備える後見人等候補者名簿に掲載されていれば、基本的にはそのまま選任されます。

申立て後、審判の前であれば申立てを取り下げることはできますか?

申立て後の取り下げは原則として認められません。

成年後見制度は本人保護のための制度なので、申立ての取り下げには家庭裁判所の許可が必要になります。

取り下げの理由が、同じ方についての申立てが重複した、本人の判断能力が回復した等であれば、本人に不利益が生じることはないので取り下げは認められるでしょう。

一方、思ったような選任がされそうにない等の申立人の都合による取り下げは、本人保護の必要性が消滅しない限り、認められることはないでしょう。

後で後悔しないように、本当に制度の利用が必要かよく考えて申立てを行いましょう。

親族以外の第三者が後見人や後見監督人に選任されるのはどんなケースですか?

親族間での紛争があるケースや、後見事務の難易度が高いケース、本人の財産が多いケースなどです。

裁判所によれば、以下のようなケースでは第三者を関与させる審判が出される可能性があります。

  1. 財産管理や後見制度の利用等について、親族間での紛争や意見の対立がある場合。
  2. 現金や預貯金などの流動資産の額や種類が多い場合。
  3. 不動産の売買や生命保険金の受領など、後見事務として重大な法律行為が予定されている場合(重大な法律行為を行うために申立てをする場合)。
  4. 遺産分割協議など、後見人等と本人の利害が対立する行為(利益相反行為)を行うことが予定されている場合(後見監督人等に本人の代理をしてもらう必要がある場合)。
  5. 後見人等候補者と本人との間に高額な貸付金や借金、立替金などがあり、その清算について本人の利益を特に保護する必要がある場合。
  6. 後見人等候補者と本人が、これまで疎遠だった場合。
  7. 賃料収入等の、状況によって大きく収入額が変動する可能性がある財産が存在するため、定期的な収入状況の確認が必要な場合。
  8. 後見人等候補者と本人との生活費等の分離が十分でない場合。
  9. 申立時に提出された財産目録や収支状況報告書等の書類の記載から、今後適正に後見事務を行うことが難しいと思われる場合(候補者の事務遂行能力に問題がある場合)。
  10. 後見人等候補者が後見事務を行うことに自信がない場合や、事務について相談できる者を希望する場合。
  11. 後見人等候補者が自分自身や自分の親族のために本人の財産を利用(担保提供を含む。)している場合や、今後利用する予定がある場合。
  12. 後見人候補者が、本人の財産を運用(投資)することを目的として申立てている場合。
  13. 後見人等候補者が、健康上の問題や多忙などで適正な後見事務を行えない場合や、行うことが難しい場合。
  14. 本人について、訴訟・調停・債務整理等の高度な法的知識が必要な手続を予定している場合。
  15. 本人の財産状況が不明確であり、専門職による調査が必要な場合。

​参考:後見Q&A|裁判所

家庭裁判所から後見制度支援信託を利用するか、後見監督人を付けるかを選ぶように言われたのですがどうすればいいですか?

どちらにも長所と短所があるので、よく考えて選択しましょう。

裁判所により運用は異なるものの、本人に一定額以上(おおむね一千万円以上)の流動資産がある場合は、その他に特に問題が無くても、後見制度支援信託の利用か後見監督人を付けるかを選ぶよう迫られることが多いようです。

後見制度支援信託を利用した場合は、信託契約締結後に一度だけ専門職に支払う報酬が発生しますが、以降は親族後見人が希望しない限り報酬は発生せず、財産管理の負担も減るというメリットがあります。

一方、後見監督人が付く場合は、基本的に本人が亡くなるまで報酬が発生し続けることになりますが、後見事務の困った点やわからない点について気軽に相談できるため、安心できるというメリットがあります。

このような家庭裁判所の運用は、後見人による財産の使い込みを防ぐことを目的とするものですが、これまで何の問題もなく後見事務を行ってきた方が選択を迫られるケースもあるようで、画一的な運用に不満の声も上がっています。

背景には後見制度の利用者数増加によって、家庭裁判所だけでは全ての事件について細かく対応することが難しくなったという事情があるようです。

後見人に選ばれたのですが、後見業務が思ったより大変で最近嫌になってきました。辞めることはできますか?

単に大変だからという理由では難しいですが、正当な理由による辞任は認められます。

後見人は、正当な理由がある場合は、家庭裁判所の許可を得て辞任することができます。

後見人が転勤等で遠隔地へ行くことになった、病気のため後見事務を行うことが難しくなったという理由であれば正当な理由として認められるでしょう。

一方、多忙のためとか収支の管理や書類作成が面倒といった理由は、正当な理由としては認められないでしょう。(申立時の面接でその覚悟はあるか確認されたはずです)

忙しいから、面倒だからといって財産管理や家庭裁判所への報告を怠れば、職務懈怠という事で家庭裁判所から解任されてしまいます。

それで済めばいいのですが、職務を怠ったことによって本人に損害が生じた場合、後任の後見人や親族から損害賠償請求される可能性もあります。

後見人の職務は基本的には一般の方でも行うことができるものですが、財産状況や本人の精神状態によってはとても大変な場合もあります。

後見人になるつもりの方には、本人が亡くなるまでずっと職務を行っていくという強い覚悟が必要です。

自分が後見事務を行うことに自信が無い方は、信頼できる専門職に後見人になってもらうことを検討しましょう。

すでに親族が後見人にされている場合に、相続が発生したときの注意点はありますか?

被後見人と後見人がどちらも相続人の場合、特別代理人を選任してもらう必要があります。

後見開始後に、本人が相続人となる相続が発生した場合、意思能力のない本人の代わりに後見人が遺産分割協議に参加することになります。

このとき後見人が共同相続人である場合は、本人と後見人の利害が対立するため(利益相反行為と言います)、本人の代わりに遺産分割協議に参加することはできません。

そこでこのような場合は、家庭裁判所に特別代理人(補助の場合は臨時補助人、保佐の場合は臨時保佐人)を選任してもらうための申立てを行います。

特別代理人には、共同相続人でなければ、親族を選任してもらうことも可能です。

遺産分割の場面でも本人が不利益になるようなことはできないため、特別代理人選任の申立て時には、家庭裁判所から本人の法定相続分を確保した遺産分割案の提出を求められることには気を付けましょう。

なお、後見監督人(又は補助監督人、保佐監督人)が選任されている場合や、複数後見で財産管理は別の(利益相反関係にない)後見人が行っている場合は、後見監督人や別の後見人が遺産分割協議に参加すればよく、特別代理人等を選任してもらう必要はありません。

選任された後のことを考えると不安になってきました。申立書類の準備も大変そうだし、どこかいい相談先はありますか?

制度の実情に詳しい司法書士への相談をおすすめします。

ここまで述べてきた通り、成年後見制度には様々なメリットがある一方、利用するにあたって気を付けるべき点も多いです。

とは言ってももともと親族が後見人になることを想定して作られた制度ですので、必要以上に不安になる必要はありません。

しかし、一般的に語られる表面的なイメージと実情とのギャップが大きい部分もあるので、制度を利用することや後見人候補者になることを悩まれている方は、後見制度に精通した専門家に、一度相談することをおすすめします。

司法書士は独自の後見支援団体として公益社団法人リーガルサポートを設立・運営しており、家庭裁判所から専門職後見人として選任される割合が最も高い職業です。

また、家庭裁判所へ提出する書類の作成を業務として行えるため、申立て手続きについても的確にアドバイス・サポートすることが可能です。

後見制度についての相談先としては最も適していると言えるのではないでしょうか。

参考:公益社団法人 成年後見センター・リーガルサポート

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最後に

成年後見制度は、開始当初から比べれば大分浸透してきたとはいえ、まだまだ一般の方に十分に認知されているとは言えません。

また、支援を必要とする方の数や状況に、支援する側や監督する側、あるいは金融機関等の対応が追いついておらず、制度の問題点が浮き彫りになって来ているのも事実です。

とは言え、本人保護や自己決定権の尊重といった制度の理念については軽んじられるべきものではありません。

現状では、制度についてよく知り、問題点も認識した上で、本人のために一番良い選択をすることが大事なのではないでしょうか。

制度の利用や申立てについて悩まれている方は、一度専門家に相談してみて下さい。

成年後見制度利用についてのご相談は当事務所で承ります。ご依頼を検討中の方のご相談は無料です。

記事の内容や相続手続の方法、法的判断が必要な事項に関するご質問については、慎重な判断が必要なため、お問い合わせのお電話やメールではお答えできない場合がございます。専門家のサポートが必要な方は無料相談をご予約下さい。

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この記事の執筆者

司法書士法人東京横浜事務所
代表 田中 暢夫(たなか のぶお)

紹介年間100件以上の相続のご相談・ご依頼に対応している相続専門の司法書士。ミュージシャンを目指して上京したのに、何故か司法書士になっていた。
誰にでも起こりうる“相続”でお悩みの方の力になりたいと、日々記事を書いたり、ご相談を受けたりしています。
九州男児で日本酒が好きですが、あまり強くはないです。
保有資格東京司法書士会 登録番号 第6998号
簡裁訴訟代理認定司法書士 認定番号 第1401130号

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