相続で揉めやすい5つの事例と『争族』にしないための4つの対策
紛争防止は最優先すべき相続対策
相続人間での紛争の防止は相続対策を考えるうえで最も重要な要素です。
しかし、紛争の防止と言ってもピンとこない方のほうが多いかも知れません。
相続をきっかけに骨肉の争いになってしまうと取り返しがつきません
『うちは家族全員仲がいいから争いになる心配なんてないよ』
『うちには争いになるほどの財産はないから大丈夫かな』
と思っている方もいるでしょう。
しかし、遺産相続についての話し合いは亡くなってから行われるのです。
生前であれば、争いがあっても財産の持ち主であるあなたが諫める事ができるでしょう。しかし、遺産をめぐって争いになった時にあなたはもうそこにいないのです。
そして、遺産をめぐる争いは資産家にばかり起こるわけではありません。むしろそれほど資産が多くない家庭の方が争いになる可能性が高いのです。
そこでここでは、相続対策を行うにあたって最も重視すべき、紛争の防止に焦点を当てて、紛争になりやすいケース、紛争防止のために取るべき対策を解説します。
残された家族が財産をめぐって『争族』にならないように、生前にできるだけのことはしておきましょう。
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遺産をめぐる争いは資産家だけの話ではない
まずは下の図をご覧ください。これは家庭裁判所で調停が成立した、または認容審判があった遺産分割事件(遺産分割調停・審判)の、遺産額別の割合を示したものです。
■遺産分割事件の遺産額別割合
平成28年度遺産額別遺産分割事件件数(クリックで拡大します)
ご覧の通り、全体の約3分の1を遺産額1000万円以下の事件が占め、全体の4分の3以上を遺産額5000万円以下の事件が占めています。
もちろん、遺産額が多くなるほど絶対数が少なくなるので、これを見て『財産が少ない方が揉める』とまでは言えませんが、少なくとも、遺産の額に関わらず揉める可能性は大いにある、という事は理解していただけると思います。
なぜ、財産が少なくても揉めるのか
ドラマなどでは、資産家の一族が多額の遺産をめぐって骨肉の争いを繰り広げる姿が描かれることが多いですが、現実では、自分たちが特に裕福だとは思っていない、ごく一般的な家庭でも、遺産争いになることは珍しくないのです。
資産額5000万円というとかなりの額のように思えるかもしれませんが、実際には不動産が財産価値のほとんどを占めるケースや、老後資金として華美な生活をせずに蓄えてきたケースが多く、本人や家族たちに資産があるという自覚はないことがほとんどです。
相続人同士の関係も、相続開始前から揉めていたというケースは少なく、むしろ以前は仲の良い兄弟だった、というケースも少なくありません。
しかし仲の良かった兄弟でも、いざ財産を目の前にするとどうしても人間の本音の部分が出てきてしまうものです。
私は実家によく顔を出して親の面倒を見ていたから多めにもらいたい、と主張するぐらいであればまだいい方です。本来部外者であるはずの子供の夫や妻などが出てきて話がこじれることもさほど珍しいことではありません。
また、遺産総額5000万円以下の場合、主な財産は不動産のみという事が多く、預貯金等他の財産で調整することが難しいという事情もあります。
代償金を支払ったり、売却して代金を分割したりするのが難しければ、誰が不動産を取得するかで揉めに揉めることになるのです。
遺産をめぐって調停や審判に持ち込まれる件数は、相続の発生数全体からすればわずかです。
しかし数字には現れませんが、調停や審判まではいかないものの、相続をきっかけに関係がこじれてしまったというケースは、かなりの数になると思われます。
また、その中には故人が行った相続対策のせいで揉め事になってしまったというケースもあるでしょう。
過度に心配する必要はありませんが、相続対策を考えるのであれば、その対策がかえって揉め事のきっかけにならないか?という視点は常に持っておくべきです。
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遺産をめぐる争いになりやすい5つの事例
遺産をめぐる争いになりやすいケースを知っておけば、対策も立てやすくなります。
以下で特に争いになりやすい典型的な5つの事例を紹介します。事例に当てはまりそうな方は自分の体や心がしっかりしているうちに対策をしておくべきです。
1
特定の相続人(又はその配偶者)が亡くなった方の介護・世話をしていた
最も揉めやすいのがこのケースです。
子供のうちの一人が親と同居して介護や生活面での面倒を見ていたという場合、双方の意見が真っ向から対立することがよくあります。
お世話をしていた方は、あれだけ苦労したのだから自分は多く貰って当然と主張します。
一方他の方は、面倒を見てくれたことには感謝するけど、それとこれとは別の話、法定相続通りきっちり分けるべきと主張します。
それぐらいならまだいい方で、中には『同居していた分、住居費や生活費も浮いただろうし、金銭的援助もしてもらっていただろうから、むしろこちらの方が多くもらう権利がある』と言い出す方もいたりします。
同じものを見ているにも関わらず、捉え方が全く違うので、妥協点を探すことはなかなか難しいでしょう。
さらにこのケースでは実際に亡くなった方のお世話をしていたのは、相続人の妻だったという事も多く、そうなると話が余計ややこしくなります。
同居していた方やその妻は、妻の行為は、配偶者である夫(相続人)の行為と同じであるとしてより多くの取り分を求めるでしょう。(実際にそのような主張を認める裁判例もあったりします)
一方その他の相続人は、相続人でもない人がいくら介護をしたところで関係ない、部外者が口を挟むな、と主張して両者の言い分はここでも食い違います。
こうなると当事者同士での解決は極めて困難でしょう。
遺産相続が、相続人だけでなくその家族まで巻き込んだ、長年の紛争のきっかけになることも決して珍しい事ではありません。
2
特定の相続人(又はその家族)が亡くなった方から多くの資金援助を受けていた
兄弟のうち一人だけが、留学資金などの教育資金を援助してもらっていたケースや、結婚資金や住宅購入資金などで大きな金銭的援助を受けていたケースです。
孫がいる家庭にばかり援助が集中するケースもこれに該当します。
もらった方は、教育資金や結婚資金を援助してもらうのは家族として当然として考えていて、自分だけが特別な援助を受けたとの意識はなかったりするのですが、援助を受けていない他の方からは『あいつばっかりお金を出してもらっている』と映ってしまうものです。
時には援助してもらった当人も忘れているような何十年も前のことを、今になって持ち出す方もいたりします。
兄弟姉妹間の格差というのは大人になっても意外と根が深い問題です。
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3
特定の相続人だけが亡くなった方と親しく、他の相続人とは疎遠だった
同居しての介護等はしていないものの、近くに住む子供はよく実家に顔を出して何かと気にかけていたが、他の子供たちはほとんど実家に寄り付かなかったというケースです。この場合もやはり両者の言い分は食い違うでしょう。
疎遠だった相続人は亡くなった方の身辺状況を知らないため、本当はもっと財産があるのに隠しているんじゃないか、財産を使い込んでいたんじゃないかとのあらぬ疑いをかけられてしまうこともあります。
親しかった方からすれば、生きている間は全く気にもかけなかったのに亡くなった途端に・・・との思いもあるでしょうから、感情的な面も含めて両者の隔たりは埋めがたいものがあるでしょう。
4
主な財産が自宅不動産ぐらいしかない
主な財産が自宅不動産ぐらいしかない場合、さらに相続人である子供のうちの一人が以前からそこで暮らしていた場合は、財産の分割をめぐってトラブルになる可能性が高いです。
全員が別居していて今後も誰も使用する予定がなければ、売却して代金を分割すれば済みますが、すでにそこに生活拠点がある人がいればそういうわけにはいきません。
そこに住む人からすれば、以前から住んでいたのだから、この家は当然自分が貰う権利があるとの思いがあるでしょう。
しかし他の相続人がおとなしく引き下がってくれるとは限りません。同居していようがいまいが、亡くなった人の財産については、法定相続分に応じてそれぞれの相続人に権利があるのです。
5
亡くなった方が離婚・再婚している
亡くなった方の後妻やその子供と前妻の子が対立するケースです。
特に前妻の子が独り立ちしてからの再婚だった場合、前妻の子と後妻は法律上も事実上も他人であることが多いでしょう。
そのような場合、再婚してから亡くなるまでの期間が短ければ、前妻の子たちからすると後妻が財産の半分を持っていくのは面白くないでしょうし、亡くなるまでの期間が長ければ、逆に後妻の方が面白くないでしょう。
さらに後妻との子供がいる場合(連れ子を養子縁組した場合も含む)は、法定相続人が増えることになるため、両陣営に分かれての泥沼の争いは避けられないかもしれません。
もちろん再婚と言っても後妻達との関係がきわめて良好な場合も多々あります。そのようなケースではあまり心配はいらないでしょう。
その点では他の事例と違って、生前の関係から紛争になりそうかどうかが予想しやすいケースであると言えます。
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紛争防止のための具体的な対策
では、自分が亡くなった後に、親族同士で争いになることを防ぐためにはどのような対策をとればいいのでしょうか?
紛争防止のための具体的な対策としては、主に次の4つが挙げられます。
- 公正証書遺言の作成
- 家族信託契約の締結
- 公平な生前贈与
- 不動産の生前処分・他の資産への転換
以下、それぞれについてくわしく解説します。
1
公正証書遺言の作成
紛争防止のために最も効果的な対策は、何といっても遺言書を作っておくことです。
遺言書を書いておけば、基本的には遺言書に従って分割せざるを得ません。
特に献身的な介護等をしてくれた子供や子供の配偶者いる場合は、その分を考慮した分割内容にしておいた方がいいでしょう。
取得する財産額に多少の偏りがあっても、付言事項としてなぜその分割にしたかの理由を、家族への感謝等の想いと共に記しておけば、相続人間に軋轢が生まれる可能性は低くなります。
付言事項とは遺言書の記載のうち、法定遺言事項以外の事項のことです。法的な拘束力はないものの、何を書いても自由なため、より故人の思いがあらわれやすく、むしろ付言の方に力を入れて作成される方も多いです。
遺言書は故人がこの世に残した最後のメッセージとなるものなので、作成される際は、短くてもいいので付言で家族への思いを伝えることをおすすめします。
ただし、いくら自由と言っても間違っても特定の相続人への恨みや苦言などの争いの種になるようなことは書いてはいけません。
相続人同士の中は悪くなく、分割内容にも問題がないにも関わらず、そのようなことを書いてしまったために紛争になったり、わだかまりが残ってしまうケースは残念ながら少なからず存在します。
また、特定の相続人に法定相続分より多くの財産を取得させる場合は、他の相続人の遺留分を侵害しないように気を付けましょう。
遺留分とは、一定範囲の相続人に認められている最低限の取り分のことです。
自分の取得した財産が遺留分より少なかった場合は、遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)をすることによって、財産を多く取得した相続人等に対して遺留分相当の財産の返還(減殺)を求めることができます。
しかし請求を受けた相続人等がすんなり返還に応じるケースは少なく、調停や訴訟で泥沼の争いに発展するケースが多いのです。
特に法定相続人以外の方(内縁の妻や子の配偶者、孫など)へ財産を取得させる場合は、遺留分で揉めることが多いので、細心の注意を払い、遺言によって余計な争いを引き起こさないように努めましょう。
不安がある方は専門家と相談のうえで作成することをおすすめします。
なお、兄弟姉妹には遺留分はありません。子供がいない夫婦の場合は兄弟姉妹が相続人になる可能性が高いので、配偶者にすべてを相続させる内容の遺言を残すことも、余計なトラブルを防止するための一つの手段と言えるでしょう。
遺言書を作成する場合は、できるだけ公正証書で作成しておきましょう。
遺言書は自分一人で作成することもできますが、公証人が関与する公正証書で作成しておけば、遺言書が法定の要件を満たさないために無効になってしまうリスクはなくなります。
また、公正証書遺言は公証人や第三者の証人が立会いのもと作成されるため、遺言内容が本人の意思によるものかをめぐって争いになる可能性も減ります。
さらに、作成した遺言書の原本は公証役場で保管されるため、遺言書の紛失や、偽造・改ざんといったトラブルも回避できます。
費用はかかっても公正証書で作成するメリットは大きいので、公正証書遺言を残すことを強くおすすめします。
どうやって作成すればいいかわからない方や、公証人との事前のやり取りが面倒な方は司法書士などの専門家に依頼すれば、遺言書原案の作成から、公証人との打ち合わせ、立ち合い証人の手配まで行ってくれます。
公正証書遺言作成についてくわしくはこちら
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2
家族信託契約の締結
家族信託とは、商事信託と違い、営利を目的としない信託のことです。
信託銀行や信託会社が受託者(信託の目的に従って財産の管理・処分を行う人)となって、信託報酬を受け取る代わりに財産の管理・運用を行う商事信託とは異なり、家族信託では親族などの近い関係にある方が受託者となることが多く、基本的には報酬も発生しません。
家族信託では信託する財産や信託の目的などの信託契約の内容は、かなり柔軟に設定できるので、遺言書では不可能な、次の次の財産承継者の指定(後継ぎ遺贈型受益者連続信託と言います)なども可能です。
うまく活用すれば、長期にわたって財産をめぐる紛争を防止することもできる家族信託ですが、家族信託においても遺留分の問題は廃除することができません。
また、未だ発展途中の分野であり、信託契約の内容によっては思わぬ問題が生じることもあるので、家族信託を検討されている方は、利用の是非も含めて専門家に相談されることを強くお勧めします。
3
公平な生前贈与
相続人等への生前贈与は、財産のスムーズな移転や節税対策としての効果も期待できるので、実行する価値の大きい相続対策の一つです。
ただし相続人ごとの贈与額に大きな偏りがあると、亡くなった後にトラブルに発展する可能性が高いので、できるだけ公平に贈与することを心がけましょう。
生前贈与は特に相続対策を意識せず行われることも多く、あげる人やもらう人が相続時のことまで気にしているケースは少ないです。
したがって本人としてはひいきすることなく贈与しているつもりでも、結婚資金や住宅の購入資金、孫の教育資金などの贈与の結果、積み重なった各家庭ごとの贈与額では大きな差があるという事は珍しくありません。
結婚や出産で家族が増えることはおめでたい事ですし、かわいい孫にお金を出してあげたくなるのは自然なことなので、そのような贈与が必ずしも悪いわけではありません。
しかしあまりにも贈与額に偏りがある場合は、遺言書で贈与された額が少ない相続人に多く相続させ、付言でそのことに触れておくなどの対策が必要かもしれません。
効果的な生前贈与方法についてはこちら
4
不動産の生前処分・他の資産への転換
先に述べた通り、主な財産が自宅不動産のみであり、以前からそこで暮らしていた相続人がいる場合、遺産分割で揉める可能性が非常に高いです。
代償金の支払いで解決するという手もありますが、そのための資金が手元にない場合もあるでしょうし、不動産の評価をめぐって意見が食い違うこともあります。(たいてい、不動産を取得する人は低めに、取得しない人は高めに見積もります。)
全員が納得できず遺産分割調停や審判に持ち込まれたとしても、長い時間がかかったあげく、最終的には不動産を売却して代金を分割せざるを得なくなるでしょう。
そこで暮らしていた人はもちろん、他の相続人にとってもかかった時間や心労を考えると手放しで喜べる結末とは言えません。お金は手に入っても、一度亀裂が入ってしまった関係を修復するのは難しいでしょう。
そうなることを防ぐためには、思い切って生前に不動産を処分して、金融資産に換えてしまうというのも一つの手です。
賃貸住宅や高齢者住宅等に移り住むことになれば、賃料や施設利用料等の出費が発生するため、財産が目減りするのを嫌う相続人がいるかもしれませんが、生きている間は自分の財産をどう使おうが自由です。
残されたのが金融資産であれば、分け合うのはさほど難しくありません。
ただし、金融資産は不動産に比べて、相続税評価の面では不利になります。
特に居住用不動産の場合、同居する子供が相続すれば、小規模宅地等の特例の適当を受けることができるため、節税面でのインパクトは非常に大きいです。
財産額が相続税の基礎控除額を超えそうな方は、他の対策との兼ね合いも含めて慎重に検討すべきでしょう。
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最も大事なのは生前のコミュニケーション
ここまで、相続でトラブルになりやすいケースやその対策について解説してきましたが、このようなトラブルは、相続人と普段からコミュニケーションが取れていて、財産分割についての意向が全員にしっかりと伝わっていれば、起こる可能性は極めて低いです。
実際の所どの家族にも揉める可能性はあるとはいえ、しっかりとコミュニケーションが取れていた家族では、相続人同士の仲もおおむね良好であることがほとんどです。
遺産分割の話し合いでは人間の本音の部分が出るとは言いましたが、逆に仲の良い、信頼している人間には不快な思いをさせたくない、迷惑をかけたくないと思うのも人として普通のことでしょう。
これまでの関係等によっては難しいかも知れませんが、残された時間で可能な限り相続人たちと話す機会を増やし、真の信頼関係を築くことが、最も効果のある相続対策であり、家族のあるべき姿であると私は考えます。
最後に
遺産をめぐって争う親族のことを皮肉を込めて『争族』と呼ぶことがありますが、仲の良かった家族が争う姿を見たい方などどこにもいないでしょう。
相続をきっかけに『争族』化しないようにすることが、相続対策を考えるうえで最も大切なことです。
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