銀行の遺言執行、遺贈寄付がある場合もキャンセルできる?【公益法人への遺贈寄付がある場合に銀行の遺言執行を解約したいケース】

信託銀行の遺言執行をキャンセルして専門家に任せたい!

ご相談前の状況

叔母様を亡くされた方からのご相談。

相続人は兄弟姉妹及び甥姪。

故人は遺言を遺しており、遺言執行者として某信託銀行が指定されているが、遺言の内容や信託銀行の対応に疑問があり、できればキャンセルしたいと考えているとのこと。

ただ、遺言の内容として相続人や親族への遺贈の他、公益法人への遺贈寄付が含まれているため、遺言執行のキャンセルが可能か、キャンセルした場合はどのように対応すればいいか知りたいという事で相談にいらっしゃいました。

問題点

  • 受遺者の一人が遺贈の放棄を検討しており、放棄した場合、遺言執行者の対応できる手続きがほとんど無くなってしまう。
  • そもそも遺言執行の対象が全財産ではなく限定的なため、サービス内容とコストが見合わない。
  • 解約した場合、高額のキャンセル料を取られそうで不安。
  • そもそも遺言執行の解約が可能かどうかわからない。
  • 解約できた場合、遺贈寄付についてどう処理すればいいかわからない。

当事務所からのご提案

近年、金融機関は相続サービスに力を入れており、その中に“遺言信託”という主に信託銀行が取り扱う商品があります。

“遺言信託”は、生前に金融機関の関与の下、遺言書を作成し、相続発生後は遺言執行者として金融機関が預金解約等の手続きを行うというものです。

信託銀行等の遺言執行は対象財産が限定的でサービス内容とコストが見合わないという声も聞きます。

このケースでは信託銀行が執行する財産は預貯金等の金融資産のみとかなり限定されており、不動産については不動産の取得者自身で手続きを行う必要がありました。

また、受遺者の一人が相続を辞退したいという事で遺贈の放棄を検討しているという事情もありました。

遺贈が放棄された場合、その財産については相続人全員の遺産分割協議を行い、相続手続きを行う事になります。当然遺言に記載された内容と異なるため、遺言執行の対象外です。

放棄予定の遺贈は全体の約半分を占めるため、遺言執行者の対応できる範囲はさらに小さくなります。

故人の意向とは言え、遺贈の放棄は自由です。

その結果、遺言執行の対象が大幅に縮減し、代わりに相続人の負担が大きく増えたにも関わらず銀行に高い報酬を支払う必要はないでしょう。

また、ご相談者様が信託銀行に遺贈の放棄やその後の相続手続きについてサポートしてもらえるか尋ねたところ、「遺言執行の中ではできないので、新たに遺産整理など別のサービスの申し込みが必要になる。」という趣旨の回答があったそうです。

そもそも遺言の一部のみの執行報酬としてはかなり割高なのに、さらに100万円以上かかる費用が必要というのは遺産の規模を考えてもさすがに高額すぎます。

そこで、信託銀行の遺言執行についてはキャンセルしていただき、遺贈放棄した部分の相続手続きと、放棄しない部分の遺贈の履行について、当事務所で全面的に代行・サポートさせていただくことになりました。

公益法人への遺贈寄付がある場合、銀行の遺言執行はキャンセルできる?

信託銀行等の金融機関が遺言執行者に指定されている場合、執行者として正式に就任(就職)する前に相続人に書面で意向を確認します。

ここで就任や執行に反対する相続人がいると、金融機関は遺言執行者への就任を辞退する事が多いです。

金融機関は紛争性がありそうな場合は関与しない(できない)というのが基本的なスタンスだからです。

一方、正式に就任した後は辞任には家庭裁判所の許可が必要です。正当な事由がなければ裁判所の許可は下りないため、いくら相続人が希望しても簡単には辞任しません。

今回は遺言執行者として正式に就任する前だったので、多少キャンセル料はかかる可能性はありますが、事情を説明すればキャンセルできるものと思われました。

ただ、今回は遺言の内容として金融資産の一部を公益法人(日本盲導犬協会)への遺贈寄付が含まれていました。

親族の方が遺贈を放棄しても、遺言執行者が就任辞退をしても、遺贈寄付の部分については有効なので確実に履行する必要があります。

この点、遺言執行者がいない場合は相続人全員が義務者として遺贈寄付を履行すればいいのですが、寄附を受ける側からすると、相続人の方から確実に履行されるか不安が残るところです。

信託銀行もこの点は気にしており、辞退の条件として受遺者である日本盲導犬協会の同意を得るよう求められました。

そこで、日本盲導犬協会への連絡・説明や、その後の遺贈寄付の履行含めて当事務所で全面的に代行・サポートさせていただくことになりました。

このように解決しました

  • 親族の方に遺贈の放棄についての意向を確認の上、遺贈放棄の証明書を作成し、署名捺印をいただきました。
  • 日本盲導犬協会に事情を説明し、確実に遺贈は履行するので就任辞退に同意して欲しいと依頼しました。結果、同意を貰う事ができました。
  • 相続人全員の同意の下、信託銀行に遺言執行契約の解除を申し入れ、応じてもらうことができました。
  • キャンセル料として十数万円かかりましたが、当事務所の報酬と併せても大幅に費用を節約することができました。
  • 相続人の皆様に経緯を説明の上、遺産分割の話し合いをサポートさせていただきました。
  • 話し合いがまとまった後、遺産分割協議書を作成・送付し、署名捺印をいただきました。
  • 遺贈寄付については、日本盲導犬協会からも委任状を貰い、預貯金口座を解約の上、送金手続きを行いました。
  • その他、不動産の名義変更、預貯金の解約及び分配など、遺産承継に必要な一切の手続きを代行し、相続人様の負担なく終える事ができました。

担当者からのコメント

故人が生前に信託銀行等の遺言信託サービスについて、様々な事情からキャンセルしたいと考える方は少なくありません。

実際に当事務所でも、主にサービス内容にコストが見合わないという事で、遺言執行をキャンセルしたいという相談を受けることは良くあります。

そのような場合、当事務所ではいたずらにキャンセルを進めるのではなく、遺言の内容、相続人の関係性、相続人以外への遺贈の有無、遺言執行者の就任(就職)承諾の有無等を詳しく伺ったうえでアドバイスを行っています。

キャンセルしたはいいが、その後の相続・遺産承継手続きが滞ってしまっては意味がないからです。

特に正式に遺言執行者に就任した後は金融機関も勝手に辞任するわけにはいかないので、費用がもったいないという理由ではキャンセルはできないでしょう。

故人の遺志は尊重したいが、金融機関の遺言信託サービスに不満がありキャンセルしたいとお考えの方は、金融機関に対して就任についての意向を返答する前に、相続の専門家に相談することをおすすめします。

また、遺言を残す方は、家族にわだかまりを残さないためにも、遺言信託サービスを申し込む前に、一度相続実務に精通した専門家に相談してみることをおすすめします。

当事務所は、面倒な相続手続きをまるごとおまかせいただける「相続まるごとおまかせプラン」をはじめとしたサービスを提供しており、遺言執行者が就任を辞退した場合の相続手続きについても数多くのサポート実績がございます。

ご依頼を検討中の方のご相談は無料です。

相続まるごとおまかせプランについてくわしくはこちら

遺贈の放棄についてくわしくはこちらをご覧ください。

※記事の内容や相続手続の方法、法的判断が必要な事項に関するご質問については、慎重な判断が必要なため、お問い合わせのお電話やメールではお答えできない場合がございます。専門家のサポートが必要な方は無料相談をご予約下さい。

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この記事の執筆者

司法書士法人東京横浜事務所
代表 田中 暢夫(たなか のぶお)

紹介年間100件以上の相続のご相談・ご依頼に対応している相続専門の司法書士。ミュージシャンを目指して上京したのに、何故か司法書士になっていた。
誰にでも起こりうる“相続”でお悩みの方の力になりたいと、日々記事を書いたり、ご相談を受けたりしています。
九州男児で日本酒が好きですが、あまり強くはないです。
保有資格東京司法書士会 登録番号 第6998号
簡裁訴訟代理認定司法書士 認定番号 第1401130号

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