未成年の相続人、12か月後に成人する場合はどうすべき?【未成年の成人を待って遺産分割協議及び相続税申告を行うケース】

娘の成人を待っていると、相続税申告が間に合わない…

ご相談前の状況

ご主人様が亡くなられた方からのご相談。

相続人は妻と子供3人。

相続人の中に来年成人する19歳の娘がいるが、その場合特別な手続きが必要と聞き、相談にいらっしゃいました。

注)2022年4月1日以降、成人年齢は18歳に引き下げられました。

問題点

  • 未成年者が親権者と共に相続人になる場合、遺産分割協議を行うにあたり、特別代理人の選任が必要。
  • 特別代理人が遺産分割協議に参加する場合、原則として本人(未成年者)の法定相続分の確保が必要。
  • 不動産や事業に関する財産が多く、財産を分散させることは避けたい。
  • 配偶者の生活保障のために、金融資産は妻に多く相続させたい。

当事務所からのご提案

遺産分割協議を行うにあたり、相続人の中に未成年の方がいる場合、本人に代わって親権者が遺産分割協議に参加することになります。

しかし、今回のように未成年と親権者がどちらも相続人の場合、形式上親子間で利害関係が対立するので、親権者は代理人として遺産分割協議に参加することはできません。

そこでこのような場合、親権者の代わりに遺産分割協議に参加する代理人(特別代理人)を、家庭裁判所に選任してもらう必要があります。

ただし、特別代理人選任の申立時には、遺産分割協議書案を提出する必要があり、この遺産分割協議書案は、原則として本人(未成年者)の法定相続分の確保をしたものでなくてはなりません。

特別代理人は未成年者の権利を守らなくてはならないので、本人に不利な内容の遺産分割は認められないためです。

今回はこの点が大きなネックになりました。

というのも、故人は不動産業を営んでおり、遺産の大部分を不動産や自社株式などの事業に関連する財産が占めていたのです。

法定相続分を確保するためにはこれらの財産の一部を未成年に相続させなくてはなりませんが、事業は別の兄弟が継ぐことになっており、本人は学生のため、これらの財産を相続しても有効活用できる状況にはありませんでした。

むしろ、一家としては財産を分散させることで、事業に影響が出ることを懸念されていました。

また、比較的若くして(60代前半)亡くなられたため、金融資産については今後の生活保障のために妻(母)が多く相続するという事で相続人の意見は一致していました。

成人するのを待てば遺産分割協議は自由に行えるものの…

上記の状況を踏まえると、来年未成年の娘が成人するのを待って、未成年の法定相続分にとらわれない形で遺産分割協議を行うのがベストかと思われました。

しかし、実はこのケースでは相続税の申告が必要であり、未成年が成人するのは、相続開始から12か月後でした。

相続税の申告は、相続開始後10か月以内に行わなくてはならず、期限内に遺産分割協議がまとまらなければ、配偶者控除や小規模宅地等の特例などの軽減特例の適用を受けることができません。

今回は、軽減特例の適用有無で相続税額が1,000万円以上変わるため、これを無視するわけにはいきません。

このような場合、10カ月以内にいったん「申告後3年以内の分割見込書」を添付して、法定相続分での仮申告(未分割申告)を行っておき、その後遺産分割協議がまとまった際に更正の請求(修正申告)を行う事で、遡って特例の適用を受けることができます。

ただし、仮申告の際にはいったん多額の相続税を納付する必要があります。(更正の請求を行えば、後から差額は戻ってきます。)

また、仮申告と更正の請求の2回申告が必要なため、税理士報酬等のコストもその分大きくなります。

そこで、税理士と連携の上、特別代理人を選任して期限内に分割協議及び申告を行った場合と、成人後に協議・申告を行った場合のメリット・。デメリットを比較し、家族の将来設計も踏まえた上でベストな方法をご提案させていただくことになりました。

このように解決しました

  • 両者を比較した結果、成人後に遺産分割協議を行う方が、将来的なメリットは大きいという事がわかりました。
  • 未成年者が成人するまでの間に、戸籍や残高証明書の取得など、遺産分割協議及び相続税申告に必要な準備を全て整えておきました。
  • 相続税の申告期限内に、いったん未分割申告及び相続税の納付を行いました。
  • 成人した日に遺産分割協議にご署名ご捺印いただき、すぐに更正の請求を行い、納め過ぎた税金の還付を受けることができました。
  • 遺産分割協議成立後すぐに、金融機関の解約や不動産の名義変更手続きを行い、迅速に手続きを完了させました。

担当者からのコメント

相続開始時に未成年であっても、遺産分割協議の時点で成人していれば、代理人は必要なく、本人の意思で遺産分割協議に参加できます。

特別代理人の選任手続きには手間がかかる上、遺産分割についての制限も受けるので、成人するのを待って遺産分割協議を行うというのも選択肢の一つです。

遺産分割協議自体には、期間の制限はなく、相続開始後いつ行っても良いとされているため、あと1~2年程度で成人という場合で、家族関係に問題がなく、経済的な支障もなければ、待つ方がメリットが大きいかもしれません。

※成人するまで3年以上かかる場合は、待つことによるデメリットの方が大きいのでお勧めできません。

ただし、このケースのように相続税の申告が必要な場合は、慎重な判断が必要です。

軽減特例の適用を受けるためには、いったん未分割申告を行い、多額の相続税を納めなくてはなりません。

後で戻って来るとは言え、遺産の額によってはかなりの負担となりえます。

遺産の内容や家族の状況によっては、特別代理人を選任して期限内に遺産分割協議を行った方が手間も費用もかからずに済むという事もあります。

どちらの方法が適しているかは事情によって異なるので、自分で判断せず、相続に精通した専門家への相談をおすすめします。

当事務所では、未成年者がいる場合の相続手続きについて数多くのサポート実績がございます。

ご依頼をご検討中の方のご相談は無料です。

面倒な相続手続きをまるごとおまかせしたい方はこちら

特別代理人選任の申立てについてくわしくはこちらの記事をご覧ください。

※記事の内容や相続手続の方法、法的判断が必要な事項に関するご質問については、慎重な判断が必要なため、お問い合わせのお電話やメールではお答えできない場合がございます。専門家のサポートが必要な方は無料相談をご予約下さい。

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この記事の執筆者

司法書士法人東京横浜事務所
代表 田中 暢夫(たなか のぶお)

紹介年間100件以上の相続のご相談・ご依頼に対応している相続専門の司法書士。ミュージシャンを目指して上京したのに、何故か司法書士になっていた。
誰にでも起こりうる“相続”でお悩みの方の力になりたいと、日々記事を書いたり、ご相談を受けたりしています。
九州男児で日本酒が好きですが、あまり強くはないです。
保有資格東京司法書士会 登録番号 第6998号
簡裁訴訟代理認定司法書士 認定番号 第1401130号

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